てんびん座
無為からの離脱
巨大な碁盤の上で
今週のてんびん座は、「弱者」の見せる巧みな技芸のごとし。あるいは、自身がすでに参加しているゲームの流れを変えていくための準備を整えていこうとするような星回り。
太古の昔から、支配する側の技芸として帝王学や天文学があったように、支配される側にも「強者」の打ち建てた秩序のなかで「それでもうまくやっていく」ための技芸は存在してきたし、それは日常的な実践のなかに、そうとは分からぬよう透かし込まれてきました。
それは住んだり、道を行き来したり、話したり、読んだり、買い物したり、料理をしたり、書いたりするといった、何気ない営みを戦術的な機略や奇襲へと転じることで、詩的でもあると同時に戦闘的でもあるような意気はずむ独創なのです。
こうした実践は、現代のように社会政治的秩序や産業構造が複雑化してきている時代において、自身を社会経済的な保障と制約からなる巨大な碁盤上に置かれた思考停止した捨て駒やモブ(名もなき暴徒)から、確かな狡知をもったゲームチェンジャーへと変貌させていく上で、ますます決定的な役割を果たしていくでしょう。
例えば、日常会話ひとつとっても、それは言葉を通した生産であり、「決まり文句」を操ったり、ふりかかる色々な事件を「しのげるもの」に変えて楽しむ術を駆使したりすることで、いざというタイミングで盤面の状況を変えるための決定打にもなりえるはず。
その意味で、18日にてんびん座から数えて「社会的自己」を意味する10番目のかに座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、「それでもうまくやっていく」ための手持ちの技芸を改めて確認したり、必要に応じて切り替えたり、新たに編み出したりしていくことがテーマとなっていきそうです。
慣性を利用する読書術
読むということであれば、例えば外山滋比古は『知的創造のヒント』の中で、出だしから知的刺激を感じた本に関しては、ぜんぶを読み切らないで、おもしろくなりそうなところで、つまり、スピードが出てきたところであえて本から離れるという付き合い方もあるのだと述べていました。
確かに、本を読むにせよ、買い物に行くにせよ、仕事をするにせよ、私たちが何か活動をする際には必ず慣性がはたらいて、一度なにかを始めると途中でやめるのが面倒になったり惜しくなったりして、結果的にあまりに多くの影響を受けすぎることになってしまうことが多々あるように思います。
外山は「本はきっかけになればよいし、走り出させてくれればそれでりっぱな働きをしたことになる」とも書いていますが、ときどき先を読むのがなんだか怖く感じる本があるのも、途中できってそこから慣性を利用して自分の考えを浮かび上がらせることを、私たちが心のどこかで自分に期待し始めた現われからなのかも知れません。
さて、今あなたの目の前には、そう感じられるような本であったり、取り組みであったり、関係性であったりはあるでしょうか。今週のてんびん座もまた、続けて留まるより、あえてそっと離れるからこそ感じられる余韻の豊かさにこそ意識を向けてみるべし。
てんびん座の今週のキーワード
まるで何者かが、わたしたちすべてを働かせつづけるためだけに、無意味な仕事を世の中にでっちあげているかのようなのだ(『ブルシット・ジョブ ─クソどうでもいい仕事の理論』)