てんびん座
人生の通り雨
自然は忘れた頃にあなどられる
今週のてんびん座は、『通り雨あなどり濡れて桑を摘む』(鈴木桃孫)という句のごとし。あるいは、自意識の固いこじれをぐっと押し開いていこうとするような星回り。
蚕のエサとなる桑の葉は、春から夏にかけて生い茂り、養蚕の盛んだった頃は桑畑もいたるところで見られたそう。また、初夏に色づき始めるその実も、熟すとベリーに似てとても甘くておいしいため、掲句の場合も黒く熟した実のほうを摘んでいたのかも知れません。
「通り雨」とありますから、作者もすぐにやむだろうと高をくくってそのまま摘み続けたところ、当てが外れて相当な本降りになってしまい、すっかりびしょ濡れになってしまったという訳です。
ただ作者の場合、そうしてつい自分の失敗を弁明しようと長々言葉を重ねてしまいがちなくだりを、ただ一言「あなどり濡れて」という言い方であらわしたところに、平凡ではないひらめきが垣間見えるのだとも言えるでしょう。
ただ「ぐっしょり濡れ」たわけでも、「あえて濡れた」のでも、訳の分からぬうちに「ぼんやり濡れた」のでもなく、あくまで鋭い自意識を抱えつつも大自然にしてやられた1人の人間として「あなどり濡れた」からこそ、その味わいもひと際忘れられないものになったはず。
その意味で、5月9日にてんびん座から数えて「広い視野」を意味する11番目の星座であるしし座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、自然に屈したひとりの「敗残者」としてのおのれを受け入れてみるべし。
何気ない行為としての記憶の書き換え
「構成的記憶」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。現実に自分の身に起きた事実そのものは変えられなくても、想起される記憶であれば後で幾らでも捏造し、でっち上げることも可能であるということを示す際に使われる心理学の言葉であり、ある意味で今週のてんびん座にとっても縁の深い言葉と言えるでしょう。
私たちの記憶はあまりにも曖昧で、みずからないし他人からの操作の影響をもろに受けがちなのですが、そうした記憶の書き換えは、しばしば日常のリズム周期の外に置かれた時にも自然に起きているようです。
つまり、夜更かしや昼夜逆転に限らず、いつもの帰り道から不意に外れた体験や、これまで降りたことのない駅に降りるとか、通り雨のなかで作業を続けるなど、ちょっとしたもののはずみやとっさの行動なんかを利用することで、私たちは寝返りでも打つように記憶を書き換えているのかも知れません。
今週のてんびん座は、どこかでそうした「書き換え」を自覚的に、かつ他の誰かと共犯的に犯していこうとするような動きが出てくるはず。その際、何を書き換えるのか、を執拗に問うよりは、俳句でも詠むようにして、いかに気持ちよくそれを行っていけるかを意識していきたいところです。
てんびん座の今週のキーワード
息苦しくなった現実に爽やかな風を通す