ふたご座
深淵をのぞく
静かなあぎとの動きかな
今週のふたご座は、『友を食むおたまじゃくしの腮(あぎと)かな』(島村元)という句のごとし。あるいは、究極的な優先順位を改めて思い定めていくような星回り。
「おたまじゃくし」といういかにも童話的な響きをもつかわいらしい姿に反して、彼らは雑食性で、基本的にはミジンコ・微生物・魚の死骸などを食べるのですが、動物性たんぱく質が不足すると共食いをすることもあるのだそう。
そのことを、同じ場所で同じ親から生まれた友を食べている、おたまじゃくしの静かに動いている腮(あぎと)よ、と作者はうたっている訳です。
「あぎと」とは顎(あご)のことであり、「えら」でもあり、いずれにせよ生命線のこと。それにしても「友を食む」という表現にはゾッとするものがありますが、おそらく条件さえそろえば、人間にも同じことが起こるはず。
飢饉や地震、疫病などの天変地異で人が大量死していた鎌倉時代初期に書かれた『方丈記』には、お互いに離れられない夫婦や家族の間では、必ず愛情深い方が先に亡くなるという記述がありましたが、もし仮に自分の身に置き換えた場合、あなたは最後まで生き残る側でしょうか、それとも先に亡くなる側でしょうか。
4月2日にふたご座から数えて「必要な犠牲」を意味する8番目のやぎ座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、どこかでそうした生きるか死ぬかの取捨選択を迫られていくことになるかも知れません。
バッカスの饗宴
例えば、道ばたの野っぱらに1本の樹が立っていて、その幹には蝶や黄金虫、羽蟻や蜂などたくさんの虫たちが群がっている。
近づいてみると、樹の幹には穴があいていて、周囲の樹皮がまくれ上がっており、虫たちはその穴のまわりに群がっている。人間の眼には、おそらくおぞましく気味の悪いものに映る樹幹の吹き出物も、虫たちにしてみれば強い誘惑の魅力があって、数多くの昆虫を引き寄せている。
そこはいわば、虫たちの「バッカスの饗宴」の場であり、何か名状しがたい、人間にはとても近寄ることさえできない、恐ろしいようなすごいものが展開されている。
だが、野っぱらの樹にあいた穴に顔をつっこんでいくような奇特な人間はまずいない。ことほど左様に、そうしたふしぎな力を持つ場は普段人間たちからはごくありふれた光景として打ち捨てられていたり、あったとしてもスルーされていたりするのではないか。
小さな日常は、本当はぜんぜん小さくなどない。今週のふたご座は、そうした類の真実を身をもって体感しようとしているのかも知れません。
ふたご座の今週のキーワード
あなおそろしや