ふたご座
新しい官能性の探求
神聖な瞬間を創り出す
今週のふたご座は、「雪・躰・雪・躰・雪 跪く」(田中亜美)という句のごとし。あるいは、否定しようがないほど生々しいの実感の高まりを経験していくような星回り。
雪が降り続いている。そのはざまはざまに、躰(からだ)があるのだという。そのことに気が付いて、おもわず作者はひざまずいた。
もちろん、現実の光景を描写しているのではないのでしょう。作者はここで言葉によってまったく新しい空間を創り出し、まだ名前のついていない感情を引き出そうとしているのかも知れません。
「体」の異体字である「躰」がなぜ使われているのかは分かりませんが、おそらく、雪の合間にちらつく何かは、ちょうど射的で的を射抜くような仕方でなければ見ることさえ難しいのかも知れませんし、裸身を想像させることで暗に「性愛」を連想させようとしているのかも知れません。
「雪」はひたすら白くて冷たい。にも関わらず、いやだからこそ、「雪」と「躰」が繰り返されるうちに、「躰」も真っ白く透明になって、不思議なほどに熱をもってくるような感じがしてくる。それはまさに「跪く」にふさわしい、人生における神聖な瞬間だったに違いありません。
同様に、18日にふたご座から数えて「実感」を意味する2番目のかに座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、頭脳に反乱を起こさんばかりに身体的/生理的な実感や要求が高まっていきやすいでしょう。
アースと繋がる
村田沙耶香の小説『ハコブネ』に制度化された性別や恋愛の"外”に広がる可能性の世界を志向している知佳子という登場人物が出てきます。「人である以前に星の欠片である感覚が強い」彼女にとって、他の人たちは「永遠に続くおままごと」のような「共有幻想の世界」に生きており、そのルールの最たるものが「性別」なのだと言います。
彼女は「その外にいくらでも世界は広がっているのに、どうして苦しみながらそこに留まり続けるのだろう」と考え、性別を二元論で考え過ぎる他の登場人物に対しては「力が入りすぎるとね、身体もほどけないんだよ」などと語ったりするのです。
そして祖父から聞いた宇宙の話に基づき、太陽を「ソル」、地球を「アース」と呼んでいた知佳子は、肉体感覚ではなく「星としての物体感覚」を追求するうち、やがて「アースと強い物体感覚で繋がる」という発想を思いつき、「ヒトであることを脱ぎ捨て」る道へと一気に進んでいきます。
知佳子が本当に記号としての性別から完全に脱しえたのかはともかくとして、少なくとも新しい感覚を探求する企てとしては興味深いものがあるのではないでしょうか。
その意味で今週のふたご座もまた、<ここ>にはない何かを強く想像することを通じて、<ここ>を生きていくための手がかりを改めて見出していくことができるかも知れません。
ふたご座の今週のキーワード
アースと強い物体感覚で繋がる