やぎ座
遙かなる影
天使の“感じ”
今週のやぎ座は、『GHOST SOUP』(1992)の主題歌のごとし。あるいは、いかにも分かりやすいメッセージを投げかける代わりに、言葉にならない“感じ”を伝えていこうとするような星回り。
90年代前半に放映された岩井俊二監督のテレビドラマ『GHOST SOUP』は、成仏できない霊のために特製のスープをふるまうヘンテコな天使の2人組を、鈴木蘭々とデーブ・スペクターが演じる。
主人公は最後の最後に蘭々の背中に“羽”を発見し、2人が天使だったことを知るのですが、その別れの場面でカーペンターズの「クロース・トゥー・ユー」は流れます。
天使たちが坂道をおりていく。主人公は二人を見ている。そしていう。
天使だったら飛んでみてよ!
パタパタと飛ぶ真似をする2人。本来は見守られる側のはずの人間が、逆に天使を見守る。坂道というシチュエーションで起こったこの逆転現象を祝福するかのように、あの名曲が静かに鳴り響き、低い場所で羽ばたいている天使たち追っていたカメラが一瞬、ほんのちょっとジャンプして、エンドクレジットに入っていく。
ここでは主題歌が余韻を冗長させるのではなく、むしろ視聴者の読後感を洗い流すかのように、きわめて抑制的に使われており、それがかえって清冽な“感じ”を残すのです。
11月8日にやぎ座から数えて「思いのたけ」を意味する5番目のおうし座で皆既月食を迎えていく今週のあなたもまた、そうした魂に降りそそぐ“小さな救済”の感覚に思いきり忠実になっていくべし。
月日は百代の過客にして
松尾芭蕉の弟子・許六による『韻塞(いんふたぎ)』という書物に収められた「風狂人が旅の賦(ふ)」という文章の冒頭に「旅は風雅の花、風雅は過客の魂」という一節があります。弟子の言葉ではありますが、芭蕉の説くところに従ったのでしょう。
この場合の「風雅」とは広くは文芸のこと、狭くは俳句のことを指し、「過客」はたえず過ぎ去る月日のことですが、この場合は気付けば飛び去ってしまう“永遠の旅人”というニュアンスで取っておくとよいかも知れません。
すなわち、俳句という芸術において、旅とは厳しい現実からの逃避ではないし、日常を離れた休暇(バケーション)でもない。むしろ旅そのものが現実であり、日常に他ならない。それは一定のルーティンや安定した居場所に自分を置くのではなく、たえざる移り変わりに眼に向け、その前提で交わった「天使的」実感を大切にすることを意味する。そして、感じたままにしておくのではなく、それを何らかの仕方で表現し、言いとどめられてはじめて、真実はその人のものとして定着するのだ、というのです。
今週のやぎ座もまた、逃避でもなければバケーションでもない、これまでの固定された文脈からの逸脱を遂げることで、みずから心を揺り動かし、それを周囲に自然と広げていくことがおのずからテーマとなっていくでしょう。
やぎ座の今週のキーワード
あなたが生まれた日/天使たちが集まって/決めたの/夢を現実にしようって