やぎ座
制限と遊び
神話の伝承
今週のやぎ座は、「あやとりのエッフェル塔も冬に入る」(有馬朗人)という句のごとし。あるいは、さまざまなものが自分を通して交錯していくような星回り。
あやとりの「エッフェル塔」と言えば、どちらかというと「東京タワー」という名称の方が一般的ですが、作者はその形から連想して実際に行ったことのある本物のパリのエッフェル塔に思いを馳せたのでしょう。
灰色の空に、どんよりと雲が低くたれ込めたパリの冬が、身辺にはじまったように感じた訳ですが、思いを馳せる先のはるかな遠さと対照的な手元の近さや細やかさが掲句の大きな特徴ともなっています。
じつはあやとりは日本人に限らず、欧州をのぞくさまざまな民族によって世界中で独自に編み出されてきた遊びであり、特にパプアニューギニアの先住民やカナダの狩猟民族イヌイットなどの文字を持たない民族にとっては、大切な神話や伝承を伝えていく役割を担っており、動物や自然、神話の登場人物を含めると少なくとも約三千種類の形が確認されているそうです。
その意味で、糸と指の関係を記号化する遊びは掲句のように異なる空間を繋ぐだけでなく、はるかな過去と未来とを結んでいく営みでもあるのだと言えます。
同様に、27日にやぎ座から数えて「叙事詩的感性」を意味する9番目の星座であるおとめ座で下弦の月(気付きと解放)を迎えていく今週のあなたもまた、自分がどのような伝承の繋ぎの役割を果たしていくべきなのか、改めて思いを巡らせてみるといいでしょう。
未開人的叡智
フランス語の「ブリコラージュ(日曜大工)」には、周囲にあるありあわせの材料で椅子や小屋など必要なものを器用に作りあげてしまうという意味があり、文化人類学者のレヴィ=ストロースはいわゆる「未開人」の社会を研究していく中で、彼ら特有の知恵をそんな「ブリコラージュ」の中に見出していきました。
「未開人」が暮らしの中で所有できるものは、現代人に比べればケタ違いに少なく、従って日常生活において必要となるものをどれだけ手持ちの少ない材料で創りだせるかが、そのまま生死を左右することになります。
こうした制限された環境で発揮される未開人の特性には、ともすると多大なる資源とエネルギーを食い潰すことでしかアイデンティティを発揮できない現代人のそれとは異なる汎用性が隠れており、それは私たちの尺度に置き換えれば、知的な逞しさに他なりません。
今週のやぎ座もまた、そんな「未開人」たちのように、まずは制限された環境そのものを愉しんでいくことが課題となっていくでしょう。
やぎ座今週のキーワード
未開人になりきってみること