かに座
光源に対抗していくということ
自身の物語を展開させてくれるもの
今週のかに座は、自己実現への欲求を書くことで果たしていった紫式部のごとし。あるいは、自分の思い通りには決して動いてくれない相手ほど、よく向き合っていこうとするような星回り。
どんな時代にも、その時代に応じた「一般的な物語」というものがあります。昭和の時代にはサラリーマンが終身雇用を得てマイホームを築こうとしたように、平安の貴族なら、まず官位の上昇ということがあり、女性貴族であれば内裏に入って天皇の寵愛をうけて皇子を産む。多くの人がそうした物語に沿って人生を生きようとしてきた訳です。
ただ、日本初の長編小説である『源氏物語』を自らの手で書き上げた紫式部は、そうした「一般的な物語」をそのまま生きようとはしませんでした。20代後半で貴族男性と結婚し、一女をもうけるものの結婚後3年ほどで夫と死別した彼女は、「一般的な物語」からかけ離れてしまった自分を慰めるために、自分の手で物語を書き始めたのだと言います。
ただ、そこには彼女が自分という一個人の内界に多彩な分身たちがうごめいていることに気付いていたという背景があったように思います。彼女は自らの影に潜む一人ひとりをなまなましく描き出すために、まず相手となる男性が必要だと考え、文字通り“光源”としての光源氏という男性を立てて、彼と女性たちとの物語を次々に展開させていったのでした。
そしておそらく、物語を書き進めるうちに、作者の意図したとおりに都合よく動く人形であるはずの光源氏が、作中で自らの意思を持ったようにこちらの意図とは無関係に振る舞い始め、彼女はそんな光源氏へ抵抗しつつ、ときに譲歩し、お互いを受け入れながら、筆のおもむく先へとたどり着いていったのではないでしょうか。
4月2日にかに座から数えて「イコール・パートナーシップ」を意味する7番目のやぎ座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、自らの内部にうごめく分身たちを照らし出してくれる“光源”をまずは見つけ出していくべし。
「彼に対抗して」
ヘブライ神話では、人類初のカップルであるアダムとエバのいきさつについて、次のように語られています。
主なる神は言われた、「人がひとりでいるのは良くない。彼のために、ふさわしい助け手を造ろう」
この後、神はアダムのあばら骨からエバを造る訳ですが、そもそもアダムという名は「土」を意味するアダマーから取られており、2人のあいだに優劣や上下などはなかったのではないでしょうか。そして、何より注目すべきは、「彼のために、ふさわしい」の箇所は原文を厳密に訳すと「彼に向き合って」「彼に対抗して」という意味となること。
愛する2人の関係については、よく互いに見つめ合うのではなく、並んで同じものを見るとよいなどとも言われますが、ユダヤの古典においては、相手の正面に立つべきとされているのです。
正面に立つとき、そこでは何が見えてくるのか。それは相手の背後であり、死角であり、視界から欠けている領域が見えてくるし、必要があれば相手にそれを知らせることもできる訳で、物語というのはそうして初めて、真の意味で展開していくのではないでしょうか。
その意味で、今週のかに座もまた、愛するものに対して然るべき立ち位置に立っていけるかが問われていくことになりそうです。
かに座の今週のキーワード
対等であり、愛しているのなら、媚びるより喧嘩を売ろう