かに座
だんだんうねりになっていく
文化のうねり
今週のかに座は、『桃食ひしあと吹く風に身をまかす』(村越化石)という句のごとし。あるいは、人生の後先についてぐーっと思い巡らせていくような星回り。
作者は10代でハンセン病にかかり、中年を過ぎてから全盲になるも俳句に終生打ち込み、「魂の俳人」とも呼ばれた人。
掲句は80代後半の最晩年に詠まれたものですが、不思議なくらい衰えを感じさせません。風に吹かれながら桃のゆたかな水気で潤いを取り戻したわが身の快さに、しばし目を瞑って陶然となっている。
桃のほのかな甘い香りに誘われて、おのずとエロスがわきだしつつ、目の前には記憶の中で青々と茂っている山の光景が広がっているのでしょう。それは遠い過去であると同時に、自分が死んだ後の未来の景色でもあったのではないでしょうか。
「人間到るところ青山あり」と言いますが、あるいは作者はこのときまさに自分の死に場所を見つけていたのかも知れません。だとすると、「あと吹く風」とは単にいま物理的にわが身に受けている風という意味だけでなく、後進の世代が起こしていくだろう文化のうねりとしても解釈できるように思います。
8月2日にかに座から数えて「継承」を意味する8番目のみずがめ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、自分がいなくなった後の景色をふっと思い描いてみるべし。
祭りじゃ祭りじゃ
最近、外国人観光客向けにお神輿のことを「持ち運び可能な神社」と説明することが多いのだそうです。お祭りでは複数の人間で神輿を激しく振り動かしますが、これは神の霊威を高め、豊作や大漁を願うためのものでした。
ただもともと、神は豊作や大漁をもたらすだけでなく、神は祟り(天変地異)を起こすものとも考えられていましたから、神輿をかついで町内を練り歩く行為は、町を鎮める力を高める意図も込められていたそうです。
最初は、呼吸を合わせるためのちょっとした掛け声だったものに、だんだんと記憶や感情がのせられ、畳みかけるように何度も執拗に繰り返されていくなかで、リズムをはらみ、ちっぽけな個という枠組みを超えて大きなひとつの力のうねりとなり、そのうねりが広がっていく時、秘められていたパワーが自然と増幅されていく。
極端な言い方をすれば、そうやってうねりやリズムをはらむのであれば、後進に文化を継承していくのだって、みなで神輿を担ぐのだって同様の効果が期待できるのではないでしょうか。
今週のかに座もまた、そんな風にすこし弱っている自分に必要な「魂の振り動かし」をみずからに与えていくことがテーマとなっていくでしょう。
かに座の今週のキーワード
「あと吹く風」を思う