かに座
こころからこころへ
自分を文脈に沿わせる
今週のかに座は、「春風や闘志いだきて丘に立つ」(高浜虚子)という句のごとし。あるいは、あえて俗っぽさに全身で浸っていこうとするような星回り。
まるで三文芝居のワンシーンのようないかにも芝居がかったポーズであり、また、「春風や」という切り口をはじめ、いまどき恥ずかしいくらいステレオタイプな言葉の組み合わせです。
この句は作者が39歳のころ、それまで小説に傾斜しがちだった路線を変更して、俳句に専念することを表明した句でもありました。そう考えると、小説のように状況を述べ表して「春の風闘志いだきて丘に立つ」とするのではなく、あえて「春風や」と切ることでわざとらしいくらいに緊張感を持たせた理由が分かるはず。
これくらい分かりやすく俳句の作法に自分をどっぷり漬けこんでみせることで、自分はこっちの方向で行くぞということを伝えようとしたのでしょう。いったん作者の意図がつかめると、非常に巧い句であるとも感じてきます。
同様に、3月21日にかに座から数えて「社会に向けた態度表明」を意味する10番目の星座で春分(太陽のおひつじ座入り)を迎えていくあなたもまた、そんな作者くらい分かりやすく、しかし強烈に、みずからの立場や意向を伝えていくことがテーマとなっていくでしょう。
言葉と言葉にならないもの
相手が誰であれ、関係性の本質にいよいよ迫っていく時、そこではもう言葉をどう使うかといったレトリックやテクニックの巧拙というのはほとんど二の次三の次になってきます。
要はそこに思想があるか。信じずにはいられない何かが、愛さずにはいられない誰かが、確かにこの相手には在るのだ。そう感じた時に、内側から溢れだしてくる熱いものがあるかどうか。
それをエモエモしく「愛」といったり、複雑な顔をして「霊」といったり、抑制をきかして「思想」といってみたりする訳ですが、呼び名なんて本当は何でもいいんです。でも、あえて呼び名をつけ、その時どきの文脈に沿ってそこに言葉を添わせていく。ちゃんと「社会的動物」としての人間をやっていく。抑制していく。
掲句もまた、作者の意向を俳句の文脈に沿って表現してみせ、散文的なディティールや説明を切り捨てた訳ですが、だからこそ、最後の最後で言葉にならないものが言葉の背後から漏れだして、こころからこころへ伝わっていったのではないでしょうか。
今週のかに座もまた、言葉の技巧的な使用以前に、そうしたこころからこころへ伝えていくという姿勢を大切にしていくことがテーマとなっていきそうです。
かに座の今週のキーワード
言葉から漏れ出したものがやがて雲となり雨を降らし豊かさをもたらす