みずがめ座
思索の道のり
やさしいことはつまらぬ
今週のみずがめ座は、失われた憧れの発生地点を求めて。あるいは、精神の火花がはじけあうような生々しい現場を実際に探し歩いていこうとするような星回り。
『人間の建設』という対談本は、湯川秀樹の恩師でもある天才数学者・岡潔と、近代日本に“批評”というジャンルを確立させた小林秀雄という天才2人が、「情緒」や「直観」といった普通学問の世界では軽くかわされがちなトピックについての勘所を語り合っているのですが、なんとなく読むと書いてあることのほとんどがよく分かりません。というのも、2人ともが、むずかしいことをわかりやすく語ろうとしていないから。
岡 人は極端になにかをやれば、必ず好きになるという性質をもっています。好きにならぬのがむしろ不思議です。好きでやるのじゃない、ただ試験目当てに勉強するというような仕方は、人本来の道じゃないから、むしろそのほうがむずかしい。
小林 好きになることがむずかしいというのは、それはむずかしいことが好きにならなきゃいかんということでしょう。たとえば野球の選手がだんだんむずかしい球が打てる。やさしい球を打ったってつまらないですよ。ピッチャーもむずかしい球をほうるのですからね。つまりやさしいことはつまらぬ、むずかしいことが面白いということが、だれにでもあります。(…)つまり、野球選手はたしかにみな学問しているのですよ。ところが学校というものは、むずかしいことが面白いという教育をしないのですな。
岡 そうですか。
小林 むずかしければむずかしいほど面白いということは、だれにでもわかることですよ。そういう教育をしなければいけないとぼくは思う。
確かに、2人は会話で、相手に遠慮した甘ったるい球はいっさい投げないし、だからこそカッコよく見えるのでしょう。なにか、こちらが見えていない世界が見えているんじゃないか、こちらをそんな気にさせてくれるのです。そして、「憧れ」というものは、元来こうした甘さの入り込む余地が極限までなくなっていく、そのギリギリの光景を目撃するところからしか生まれてこないのではないでしょうか。
12月23日にみずがめ座から数えて「向上心」を意味する9番目のてんびん座で下弦の月(意識の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、ここ最近のあなたに足りていなかった、ピリピリとして緊張感を肌身で感じる体験を求めていくことになりそうです。
時熟する
若い頃というのは経験の厚みがまだありませんから、考えごとをするのでも思索というより思考に近いと言えるかも知れません。
その意味で「思索」というものはだんだんと「自分が思った通りの人生」ではなくなってきてから初めて深まってくるもので、そうなると「人生について思索する」のではなくて、人生それ自体が自然と思索になっていることに、ある種の出会いやぶつかり合いのなかでハッと気が付いていくように感じられていくのだとも言えるかもしれません。
哲学者のハイデガーはそれを「時熟(じじゅく)」と呼びました。時間であるところの人生が、おのずと熟し、自分が存在しているということをめぐる謎の味わいが発酵してきて、得も言われぬ奥深い味がしてくる。
人間の魂というのは、どうしてもそいうものに惹かれてしまう。わかっちゃいるけど、やめられない。そういう意味で、やはりみずからに関わる過去や歴史というのは人間にとって最高のコンテンツなのです。今週のみずがめ座もまた、そんなことを頭の隅に置きつつ足が向くまま過ごしてみるといいでしょう。
みずがめ座の今週のキーワード
人生それ自体が自然と思索になっていることにハッと気が付く