みずがめ座
回復への欲望
よみがえったキューバ・ミュージック
今週のみずがめ座は、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブのごとし。あるいは、こころやからだの奥底で眠っていたエネルギーを交歓させ、混ざりあっていくような星回り。
今日では1932~62年までの約30年にわたりキューバの首都ハバナに実在した、この会員制音楽クラブの名も世界的に知られるようになりましたが、実際に彼らが活動していた当時はキューバ国外ではほとんど無名でした。
というのも、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブは一口に社交場といっても、そこに集まってくるのは普段は木工や靴磨き、葉巻作りなど、わずかな賃金労働に身をやつしながら、貧しい暮らしを余儀なくされていた人々だったから。
それでも、彼らは夜になるとそこでお洒落とラム酒と葉巻、そして音楽とダンスとおしゃべりとを愉しみ、何よりも品格と希望を決して忘れなかったのだと言います。
結果的には、そんな彼らの音楽を懐かしんだアメリカ人ミュージシャンの録音したミックス・テープがヴィム・ベンダース監督の手に渡ったことがきっかけに、ドキュメンタリー映画が撮られ、そこですっかり忘れられた存在だった彼らと共に作り上げたキューバ音楽のアルバムはグラミー賞を受賞し、一転して栄華の中心に躍り出ていくことになったのです。
10日にみずがめ座から数えて「喜びごと」を意味する5番目のふたご座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、キューバの人々の中に流れるラテンの熱い血と、哀愁を帯びた独特のリズムとメロディにのって、存在をダンスさせていくべし。
不快を原動力として
幼児の天使性が最大になる瞬間は、間違いなく彼らが顔に微笑みを浮かべた時でしょう。心理学者ルネ・スピッツは、そうした彼らの微笑みがどこから出てくるのかを「アナクライズ(anaclyse)」という概念を使って説明しようとしました。
生後間もない幼児は、身体的な温かさや母乳を求め、お母さんに近づいていきます。そして、母乳を口にできた瞬間に、彼らは表情に笑みを浮かべる。
スピッツはこのプロセスの始まりを、子供が母親の胎内にいたときに与えられていた条件が、外界に出たときに「欠けた」と認識した瞬間に求めます。幼児が泣くのは、その不快を表現するためであり、不快感を原動力にして元の状態を回復しようと、母親へと自分の欲望を向けていく。この幼児の呼びかけを「アナクライズ」と呼んだのです。
幼児の欲望は、母親の乳房といういわば柔らかいクッションに接触した瞬間に、四方八方に波となって広がっていく。そしてこの波の広がりを、幼児はあの笑いに変換しているのだと。つまり、幼児特有の天使のような微笑みは、不快感を原動力にした回復への欲望に端を発するものであり、それは彼らの負った運命的な欠損に対する反動でもあった訳です。
これほど純粋で、知的判断を排した動機はないのではないでしょうか。そして、もしかしたら、今週のみずがめ座が求めている体験とは、こういうものなのかも知れません。
今週のキーワード
天使の微笑み