みずがめ座
“私”を無くしていく旅
響きあい振動するネットワークを通して
今週のみずがめ座は、ブルース・シンガーが歌の結び目に独自に即興的につけるコーダ(最終楽章)の部分のよう。あるいは、著名性の罠を脱け出していくような星回り。
ヒューストン・ベイカーJr.の『ブルース、イデオロギー、アフロ・アメリカ文学』では、アメリカ南部のアフリカ系アメリカ人の間から発生した音楽であるブルースを、アフロ・アメリカ文化が形成されるための複雑なプロセスを生みだす子宮に喩えています。
「母体は、とどまることをしらない注入と産出の源であり、つねに創造的な変容のなかにあって絡み合い交差しあう力によって織り上げられた網の目なのである。アフロ・アメリカ文化におけるブルースは、そうした響きあい振動するネットワークを作りなしているのである」
実際、ブルースは厳格に定められた形式がある訳ではなく、形式それ自体が一瞬のうちに生まれ変わっていく生成反復の運動のようなものであり、「黒人という世界の空白(ブラック・ホール)から流れ出す匿名の声」なのだと言えます。
そして、そのコーダに仕掛けられている著名性の罠をすり抜けるトリックについて、ベイカーJr.は次のような言い方で示してみせるのです。
「もしひとがこの歌を歌ったのが誰かと尋ねたなら/それはここにいたXだけれど、もうここには居ないよ、と答えてやりな」
8日にみずがめ座から数えて「出会いによる生まれ直し」を意味する8番目のおとめ座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、「有名になること」の重さや呪縛に気付いてそれを手放していった先で、誰か何かと作りあげた新たな生を招き入れていくことになるかも知れません。
文章の本質は述語
過剰な自意識が生む悲劇や喜劇を理解していくために、カール・ユングはみずからの無意識の深い層から働きかけてくる「元型」を探しなさいと言い、整体の野口晴哉は自分の立ち居振る舞いや習慣の中に現れている「体癖」を見出せといい、一方で瞑想指導者や森田療法の実践家は「あるがまま」がいいと言う。色んな人が色んな事を言っているので、いちいち真に受けてしまう人は混乱してしまうかも知れませんね。
いっそのこと、「本来主語など必要ない」と思ってみるのはどうでしょうか。もちろん、これは酒を飲んで前後不覚の自暴自棄になれということではなくて、もう必要以上に“私”に固執するのをやめてしまおう、「もともと“私”など無い」と思い出そうということです。
もちろん生きていくのにもある程度のエゴの強さは必要ですが、でも根本のところでは、やはり人生は“私”を無くしていく旅なのです。そっちの方へ転がっていけると、これからずっとラクに過ごせるかも知れません。
今週のキーワード
自明の帰属関係の解除