さそり座
ふわり&ふよふよ
「翼小さし」の妙
今週のさそり座は、『キューピーの翼小さしみなみかぜ』(高柳克弘)という句のごとし。あるいは、ちょっとした、微妙な道徳律が指し示されていくような星回り。
「みなみかぜ(南風)」は湿っていて暖かい、どこか遠い南洋にあるというあの世の消息を感じさせる夏の季節風。そして、日本では某マヨネーズ会社のマスコットと思われている「キューピー」は、もともとは20世紀初頭にアメリカのイラストレーターであるローズ・オニールが天使をモチーフに生み出したキャラクターでした。
ほとんど人間の赤ちゃんのような等身と愛らしさにデザインされた「キューピー」も、かつては神と人間の中間に位置し、人間の運命を左右する強大な存在と考えられていましたが、今や掲句にもあるように、その翼はほんの小さく、髪もほんのちょっぴり。そうしたディテールは、圧倒的な物質的豊かさの影で、今や人びとが生き生きと感じられることのなくなった目に見えない世界の存在感の薄さを象徴するようでもあります。
しかし、「翼小さし」という表現には、どこかそうしたネガティブな意味とは異なる積極的な意味が、作者を通して込められているように思います。
いったん忘れてみないと、心の奥底に沈めてみないと、わからない価値というものがある。それは例えばニュートリノのような微細な物質のごとく、日常世界をいっぺんに覆すほどのものではないけれど、かすかに私たちに影響を与え続けていて、いつのまにか私たちを何かからそらしたり、ちょっとした細部に宿っていたりするのではないでしょうか。
6月21日にさそり座から数えて「霊感」を意味する9番目のかに座に太陽が入っていく(夏至)今週のあなたもまた、ふわりとうなじをなでていくくらいの霊威の訪れを、確かに感じ取っていきたいところです。
「ふよふよ」するぞ
オノマトペは、時にどんなに工夫をこらした言葉よりも、「よく分からないけどなんか分かる」といったすとんと腑に落ちる感覚や、言葉が直接染み込んでくる感覚を引き起こしていくことがあります。
中でも、風が草木を微かにそよがせる時の「そよそよ」とも、筋肉と何ら連動しない柔らかい肉が震えながら、その震えだけを波紋のように広げていく「ぷよぷよ」ともどこか異なる「ふよふよ」という言葉は、今のさそり座をまさに象徴しているように思います。
ふよふよとは、例えばほとんど重さというものを欠いた小さな羽虫が微細に揺れ動くときの擬音語であり、はかなくて脆弱で、思わず後ずさりするような異質を秘めた、未知の振動体を予感させますが、おそらくそれに続く行動には戦略性や駆け引きといったものはほとんど含まれないでしょう。
同様に今週のさそり座もまた、自分でも不可解な名状しがたい消息を求めて、ふよふよとしていきたいところです。
さそり座の今週のキーワード
ふふふのふ