てんびん座
賭け事とギャグ
ギャンブルは待てるか否か
今週のてんびん座の星回りには、何やら危ういギャンブルの臭いがプンプンします。
何かしら、ひょいと自分の限界を超えてしまうような賭けに出る興奮に惹きつけられていくかもしれません。賭け事というと、まずやはり「博奕はやはり、家を捨て女房を捨て、破滅に堕するのが本寸法」という雀聖・阿佐田哲也の言葉が思い出されますが、それとセットで心に留めておきたいのが、将棋の世界で不世出の天才といわれた大山康晴十五世名人の「人間は必ず間違えるから」という言葉。
大山は「受け」の達人として知られ、相手に攻めさせてから最後には粘り潰してしまうことで有名でした。先の言葉は、ここは仕掛け頃と素人でさえ思うところで、「まあこんなところだろう」という手堅い手を打つ大山に、どうしてそんな手を打つのか?と聞いた際の返答です。つまり、自分が勝つのではなく、敵が自分から負けてくれるまで、「待つ」。
それができるかどうかが、今週のてんびん座を大きく分けるでしょう。
死中に活を求める
そういえば、そんな大山名人に勝ってしまった素人がいました。無類の将棋狂いとしても知られる団鬼六が筆をとった『真剣師・小池重明』の主人公、小池重明その人です。
賭け将棋を生業とし、「新宿の殺し屋」「将棋の化け物」と呼ばれた小池の強さはまさに破格であり、なんと泥酔して暴力事件を起こし留置所から出てきた足で向かった大山名人との対局(ただし大山の角落ち)で、名人の後援会の人たちが観戦にくる予定を大幅に前倒しして圧勝してしまったのです。そんな小池の棋風は、序盤のまずさ、甘さで大きく形勢を崩され、中盤から終盤にかけて驚異的な粘りを見せてからの「死中に活を求める」急所の一撃による大逆転劇。
そんな小池の将棋の強さの秘密は、酒、博奕、色恋で破綻しつくした彼の生き様と表裏だったように思います(逃げた人妻と、今度こそ生活を安定させたい、と殊勝なこと言いだした途端、彼はありえない負け方で負けてしまいました)。本物の今週のてんびん座も、賭けを通じて、「どこまで人生を張ったギャグができるか」という自分の器を思い知らされるでしょう。
今週のキーワード
ギャンブラーとしての器量、小池重明も凄まじいが団鬼六先生(SM作家の大御所)も半端じゃない、どこまで人生を張ったギャグができるか