てんびん座
存在を前にした長い沈黙
したたかではかない
今週のてんびん座は、『夢の世に葱を作りて寂しさよ』(永田耕衣)という句のごとし。あるいは、向こう側の世界からこの世を観じていこうとするような星回り。
作者はべつに葱の生産者という訳ではなく、自分で食べる用に少しばかりの葱を作っているのでしょう。
それで、朝晩の汁物に使うときなどに1、2本引き抜いては、みずからの糧にする。そうして「夢の世」であるところのこの世を自分はなんとか渡っているのであり、そういう事実が人生ということのひっそりとした寂しさを際立たせてくれるじゃないか、と言うのです。
おそらく、これが「葱」の代わりに「米を作りて」とか「芋を作りて」とかだったら、こんな風には感じなかったし、どこか滑稽な感じになっていたというか、「夢の世」という言葉がうわっ滑りしていたと思います。
葱は主食ではないが、体を温めてくれるだけでなく、ウイルスに対する抵抗力もつけ、匂いをかぐだけで精神を安定させ、寝つきをよくしてくれるのだという。まさに八面六臂の活躍だが、何より土から生えるしなしなとした立ち姿がいい。したたかでいて、はかない食べ物なのだ。
11月27日にてんびん座から数えて「インスピレーション」を意味する9番目のふたご座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、人生の寂寥感を味わうだけのほのかな主情に駆られていくべし。
リルケの「強力な夜に抗って」
語りがたいことを語るのが詩人の役目だとして、それはしばしば「創造(クリエーション)」であると誤解されがちです。しかしそれは率直に言って思いあがりであり、実際には「翻訳」と言ってしまった方が適切なのではないでしょうか。
世界に現に存在し、力をふるっていながらも、依然として符合以外の言葉を受け付けないものを、生きた言葉に置き換えること。ただし、翻訳と言っても忠実かつ正確な逐語訳は不可能であり、また既存のあらゆるテキストによらず、自分の口で語らなければなりません。例えば、しばしば雷のような一撃に打たれる夜について、リルケはこんな風に歌っています。
……この本来の夜の中へ
偽物の粗悪な模造の夜を引っぱり込み、
それで満足しなかった者がいただろうか。
私たちは神々を、発酵したゴミ溜めのまわりに放置している。
なぜなら神々は誘いかけてくれないからだ。
神々は存在するだけで、
存在以外のものではない。
過剰な存在でありながら、香りを放たず、
合図も送らない。
神の口ほど沈黙したものはない。
(『マルテの手記』)
今週のてんびん座もまた、「感ぜよ」「思い出せ!」といったかすかな合図を受け取っていけるかどうかが試されていくでしょう。
てんびん座の今週のキーワード
本来の夜の中へ