てんびん座
広げすぎた円を縮める
同心円の真ん中
今週のてんびん座は、おへそにぎゅっと力を込めていくよう。あるいは、なにかと誰か何かに奪われがちな時間との付き合い方を見直していこうとするような星回り。
資本主義で回る現代社会というのは、つくづく他人の欲望に踊らされ続ける人生が量産される社会であり、人々はうらやましがったり、愚痴をこぼしたり、不満や怒りを訴えたりしながら、労働や人間関係などを通して、気安く他人に時間を与えてばかりいるという実感が、最近人々の間でにわかに深まってきたように感じます。
一方で、古代ローマの哲学者セネカが晩年に著した『道徳書簡集―倫理の手紙集―』には、人間の一生をどのように考えるべきか、どう生きるかという主題がそこかしこに顔を出すのですが、そこには「すぐれた人は自分の時間が少しでも他人に奪われることを許さない」といった時間の重要性を示唆する文言が頻出します。
忙しすぎる生活からは真に自分自身を生きているという実感は得られないし、私たちの持っている時間は決して短くない一方で、使い方次第でその実感は大きく変わってくるのだ、とセネカは言います。そこで語られるさまざまな言葉の中で特に印象深く、また今のてんびん座にふさわしいと思われるのが次の一文です。
われわれの全生涯がいくつもの部分から成り立っており、小さな円を真ん中にして次々に大きな円に囲まれています
自分の少年時代を包む円もあれば、老年期を包む円もある。ただ、その中心にはいつだって今日という一日の円があるのです。9月29日にてんびん座から数えて「向きあうべきもの」を意味する7番目のおひつじ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、そうした幾重にも重なる同心円を念頭に、たとえ今日が人生最後の一日だったとしても後悔しないで過ごせたかどうかを、あらためて念じてみるといいかも知れません。
山尾三省の「火を焚きなさい」
アメリカでヒッピーカルチャーが花開き、平和主義訴えていた60年代後半から70年代半ばにかけて、日本でもスピリチュアルな旅とシンプルな生活を求める若者たちを中心に、<部族>という日本で一番知られたコミューン運動がありました。
その中心人物の一人であり、部族解散後に屋久島に永住したのが詩人の山尾三省であり、彼がかつて夢見たユートピアは時代の流れとともに潰えてしまいましたが、その志が託された詩は今なお残り、多くの人に影響を与え続けています。
子供達よ
ほら もう夜が背中まできている
火を焚きなさい
お前達の心残りの遊びをやめて 大昔の心にかえり
火を焚きなさい
(中略)
人間は
火を焚く動物だった
だから 火を焚くことができれば それでもう人間なんだ
火を焚きなさい
人間の原初の火を焚きなさい
屋久島での暮らしにおいて、薪を燃やすことは欠かせない営みだったそうですが、それこそ山尾にとって、同心円の真ん中にある「小さな円」に他ならなかったのでしょう。
同様に、今週のてんびん座もまた、社会性を獲得する以前にあなたの中に灯った原初的な感情や衝動を改めて思い出していくことがテーマとなっていきそうです。
てんびん座の今週のキーワード
これまで断ち切れずにいた遊びをやめてみること