てんびん座
安全圏の書き換えに向けて
「空間をつくる」
今週のてんびん座は、家の中に自分だけの空間をつくりだす子どもの遊びのよう。あるいは、現実からの避難場所をつくり出していこうとするような星回り。
坂口恭平は双極性障害の当事者としての立場から自身の「現実」観について書いた『現実脱出論』のなかで、「現実では、個々の空間知覚が抑制され、容易に集団で動くことができる周波数だけが選択され」ており、その意味で、現実は人間という集団が作り出した「生き延びるための建築」であり、現実を生きづらいものと感じる個人は、現実を「自分なりに改変する」ことで、少しでも生きやすいものにしてみてはどうかと提案しています。
そして、坂口は自身が建築家を目指すようになったきっかけとなったのも、小学生の頃、学習机と椅子を組み合わせ、それを布で覆って「巣のような空間」(当時は「テント」と呼んでいた)をつくった経験だったと回想した上で、次のように述べています。
新しい空間をつくるということは、古い家を壊して、新築の家を建てることではないと僕は思っている。固まり、変容することがないと誰もが了解してしまった現実という空間に揺さぶりをかけ、見えない振動を起こし、バネ入りのビックリ箱のように新しい空間を飛び出させること。それこそが、僕が幼い頃にやっていた「空間をつくる」という遊びだ。
ここで坂口が大切にしているのは、「現実」を変えようと闇雲に行動していく代わりに、創造的改変へと向かうためにいったん立てこもる「思考という巣」をもつことであり、「クルクルっと巻かれて現実の隙間にそっと隠れる」ことのできるような、目に見えない空間を確保していくことでしょう。
6月11日にてんびん座から数えて「安心と安全」を意味する4番目のやぎ座へ「死と再生」を司る冥王星が戻っていく今週のあなたもまた、現実の背後にそうした「テント」をいかに作り出していけるかということを自分なりに試みてみるといいかも知れません。
かぼそい層の空間に
埴谷雄高はかつて『不合理ゆえに吾信ず』において「肉体をかこむかぼそい層の空間に眩暈のような或る不思議が棲んで」いると書きましたが、私たちは夜寝る前の意識がストンと闇に落ちる寸前や、まだ自分がどこにいるのかも定かではない完全な覚醒前のひと時にそうした「かぼそい層の空間」を毎日繰り返し通過し続けているのかも知れません。
普段なら、そのこと自体をすっかり忘れて、あるいはまったく気付かずに生活している訳ですが、今のてんびん座ならば、そんなほとんど息もできない薄く伸びた層に、さながら網でも張るように意識を添わせていくことができるのではないでしょうか。
そこに引っかかってくるのは、先の「巣作り」のようにすっかり忘れていた子どものころの喜びかも知れませんし、人生の途上でどこかへ投げやってしまった感覚だったり、肉体に深く刻まれた記憶であったり。いずれにせよ、こうした気付きは、「空間をつくる」上でのとっかかりにもなるはず。
今週のてんびん座は、そんな風に今まで発見できていなかった「現実の隙間」を、ほんの少し拡張したり、そこにひゅっと隠れたりするようなつもりで過ごしてみるといいでしょう。
てんびん座の今週のキーワード
まずは凝り固まった「現実」に揺さぶりをかけ、見えない振動を起こしていくこと