ふたご座
遠くと近くが入り交じる
響き合うものたち
今週のふたご座は、『山茶花やグラバー邸へ夕汽笛』(松崎鉄之介)という句のごとし。あるいは、自分自身がひとつの「港」となっていくような星回り。
この句の「グラバー邸」とは長崎の海を一望できる丘の上にあるイギリス人商人トーマス・グラバーの旧邸宅のことで、日本最古の洋風木造建築として現在も一般公開されています。
その広い庭園の一隅に山茶花が咲いているというのです。菊の盛りが過ぎ、紅葉も散ってしまうと庭はすっかり冬枯れの風情になりますが、その中で椿に似た白か薄紅の花を咲かせる山茶花はひと際強い存在感を放ちます。
ただ、山茶花は散りやすく、椿のように一輪ごと落ちるのでなく、風もないのに花弁をはらはらと散らせていくところが、華美なうちに寂しさを潜ませていて、じつに冬の花らしい情緒がある。そして冬は日が短いですから、すぐに夕方になる。
そうして寂しさがなんとなく高まってきたところに、海の方から船の汽笛が響いてきたのでしょう。出船なのか、入船なのか。ともかくその瞬間、胸の内の押し潰れそうな思いにフォーカスしていた意識に奥行きが加わって、一気に視界が広がるとともにそのスケール感の大きさの中で主観というかたまりがほぐれていく。
グラバー邸や長崎という土地のもつ異国情緒とあいまって、ともすると胸の内に滞留したり沈殿しがちな個人的思いが、海や船を通して遠くの誰かとつながりあっていくようでもあります。
11月20日にふたご座から数えて「拡声器」を意味する9番目のみずがめ座に冥王星が移っていく今週のあなたもまた、自分が呼応しているのはどんな声なのか、誰にどんな想いを届けていきたいのか、この機会に考えてみるといいでしょう。
石垣の「くらし」
詩人の石垣りんは、15歳で日本興業銀行に事務見習いとして就職し、以後定年まで一家の大黒柱として働き通しながら詩作を続けた苦労人で、詩の才能が開花したのは40代に入ってからでした。
食わずには生きてゆけない。
メシを/野菜を/肉を/空気を/光を/水を/親を/きょうだいを/師を/金もこころも
食わずには生きてこれなかった。
ふくれた腹をかかえ/口をぬぐえば/台所に散らばっている/にんじんのしっぽ/
鳥の骨/父のはらわた/四十の日暮れ
私の目にはじめてあふれる獣の涙。
スネをかじっているあいだは分からなかった親のありがたみも、今度は自分がかじられる番になるとやっと身に沁みて分かってくるものですが、そうした生の繰り返しや哀れさが、「四十の日暮れ」という言葉でぎゅっと凝縮して、最後の1行でカタルシス(浄化作用)に至っていく。声に出して読んでみると、まるで般若心経のお経のようでもあります。
今週のふたご座もまた、生きることにまつわるぬぐいがたいあさましさを噛みしめつつも、そうして自分が感じてきたことを「響き」へと昇華していけるかどうかが問われていくはず。
ふたご座の今週のキーワード
苦闘の浄化、その果実としての響き