かに座
当然の不出来とすこしの不思議
蛍の仲
今週のかに座は、『ゆるやかに着て人と逢ふ蛍の夜』(桂信子)という句のごとし。あるいは、対等でいられるような関わりに引き寄せられていくような星回り。
「人と逢ふ」は男女の密会。「蛍の夜」とあるからには、川のほとりか湖か、水辺に近いところに2人で出かけるのでしょう。いずれにせよ、湿気を含んだ水の香りのする空間はどこか官能的ではありますが、そうした環境や状況のもたらす官能に決して溺れていない句でもあります。
「ゆるやかに着て」は、おそらく和装。ただし正装の着物でもなく、かといって浴衣でもないのでしょう。ゆるやかに着るのと、しどけなく着るのとは違う。だらしなく着るのとはもっと違う。着崩れはしないものの、ほどよく心の緊張をゆるめた、ちょうどいい心持ちで臨もうとしている。
おそらく、2人の仲もまた、艶っぽい方へ著しく傾いている訳ではなく、かといって他人行儀な訳でもない、互いが平常に、ありのままでいられるような仲なのかも知れません。友情というのとも、恋愛というのとも違う。かといって夫婦というほど所帯じみたものとも異なる、すこし不思議な関係性。
ちょうど暗がりを飛び交う蛍のように、社会的・身体的な記号から解き放たれた魂と魂の関わりのようなものが、作者の脳裏にあったのだとも考えられます。
6月11日にかに座から数えて「パートナーシップ」を意味する7番目のやぎ座へ「死と再生」を司る冥王星が戻っていく今週のあなたもまた、そんな蛍の交わりを模していきたいところです。
不完全の美
どんな人間であれ、この世にすっと誕生したかと思えばあっという間にまたあの世へと帰っていく、ひどくあっけなく、はかない存在でという意味では、蛍とあまり変わりません。
ともするとネガティブな印象を抱きやすいこうした「はかなさ」について、例えば岡倉天心は「真の美はただ不完全を心の中に完成する人によってのみ見出される」という言い方で肯定的に捉えようとしました。
「はかなさ」とはこうした自分や人生の不完全さを感得しつつ、それを想像力の働きによって完成させる、日本人がその長い歴史を通して育んできた美意識の要諦であり、人生という不可解なもののうちに、何か可能なものを成就させんとする覚悟を伴った美意識なのだ、と。
今週のかに座もまた、そうした「不完全の美」ということを、出会いや付き合いの文脈で、いかに自分なりに成就させていくことができるのかを改めて問われているのかも知れません。
かに座の今週のキーワード
「ゆるやかに着て」