かに座
擬態を楽しむ
冗談のような本当のような
今週のかに座は、「普通の人」の擬態のごとし。あるいは、見られてはいけない宇宙人性を秘匿するための適度な仮面をかぶっていくような星回り。
地球に何らかの目的を持ってやってきたヤバい宇宙人が、地球人に化けるために「普通の人」らしい振る舞いを学んで巧みに化けているというのはもはや使い古された設定ですが、だからこそさまざまなバリエーションがあって今でも案外有効な手法だったりします。
例えば、特定の推しのアイドルのために、新曲が発売されるたびに数千枚のCDを借金をしてまで購入したり、他のファンたちの間ではちょっと名の知れた筋金入りのオタクで、じつはオタ活のYouTubeチャンネルまで開設している人がいたとして。
職場ではそのことを内緒にしていたけれど、何かの拍子で「じつはアイドルの同じCDを10枚一度に購入したことがある」と発言してしまう。しかし、結果的には周りの人に「10枚とかガチじゃん、ヤバ!」などと言われるだけで済んだことで、かえって本当の顔を無事隠し通すことができた。全てを隠すのではなく、あえて一部を自己開示することでそれが全てだとミスリードさせた訳です。
あるいは、TwitterとInstagramとTikTokなどSNSごとに見せる顔を変えることで、1人の人間がいくつもの顔を見せていても違和感がないという現代の分裂した状況を利用して、冗談のような顔のなかに本当の顔をひとつ紛れ込ませておくというのも、一部の自己開示の別バージョンと言えます。
同様に、9月26日にかに座から数えて「埋没」を意味する4番目のてんびん座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、いかに目立つかよりも、いかに大衆に紛れ込んでいけるかということがテーマとなっていくでしょう。
鴨鞭陰(かものむちかげ)の手ぬぐい
江戸時代の民衆は現代人の想像以上に日々の暮らしの中でデザイン感覚を楽しんでいたようで、18世紀後半には「団扇合わせ」だの「浴衣合わせ」だの、さまざまな「合わせ」が盛んに開かれていたようです。
これはサロンと競技が一緒になったようなものなのですが、ものやお金を賭けて賭け事にすることもあったのだとか。したがって、宮廷の歌合わせのように優雅なものなんぞにはしないというこだわりがあったようで、絶対ほんもののお宝は登場せず、いかにがらくたを「宝」に見せるか、つまりふだんそのへんにごろごろしているもののデザインを、いかに面白く考えつくかが競われたのです。
そしてその中に「手ぬぐい合わせ」というものがあり、そこに出品されたのが鴨鞭陰作の、鯨目から覗くおかしな顔のデザインでした。鯨目とは、楽屋から客席を見るためののぞき穴なのですが、そこからつい吹き出してしまいそうな顔がにょっきり現れ、それをたちまち手ぬぐいにしてしまったというわけ。
これも言わば、すべてを隠すのではなくあえて一部を開示する、ということを江戸の民衆がいかに愉しんでいたかの証左なのではないでしょうか。その意味で今週のかに座もまた、こうした江戸人たちのノリをみずからに宿していきたいところ。
かに座の今週のキーワード
芸術は町の中にあり、笑いの種は暮らしの中にある