おとめ座
些末な日常の瞬間こそ
日常の深みへ
今週のおとめ座は、『昼までに少し間のある秋の風』(名取文子)という句のごとし。あるいは、日常のなかの間合いを自分なりに深めていこうとするような星回り。
秋は一日一日と日が短くなっていく季節で、おのずと心もそれに従ってどこか急かされているような心持ちになりやすいもの。そんな中、掲句の作者は午前中のうちに済ませておくべき身近な仕事が思ったより早く終わって、ほっと一息つくことができたのでしょう。
それでなんとなく視界が広がって戸外へ意識を向けると、ちょうどサーっとこちらを透明にしながら通り抜けていくような「秋の風」が吹いていた。
「少し間のある」という言い方も一見すると平凡ですが、かえってそこに作者自身の日常感があらわれていて、つづく「秋の風」とのあいだにある無言の沈黙や間合いこそがこの作品のいちばん大切なところであるように思います。
客観的な時間の物差しからすれば「少し」ではあるけれど、そこにたっぷりとした心の余裕やのびのびとした心身のはずみを感じられてきたとき、掲句は時空をこえて人に愛される名品となっていくはず。
9月3日に自分自身の星座であるおとめ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、あなた自身の価値を明示的に語ってくれるように見える数字や肩書よりも、むしろ沈黙や間合いのうちに含まれるこころの余裕や奥行きによって自分らしさを示していくべし。
高野文子の「バスで4時に」
この漫画作品はただ単にバスでどこかへ行くという話で、その中に主人公の女性がバスの席に座っているところから始まる見開き2ページがあります。自分の目の前にシュークリームの箱があり、その中に8個入っていることを思い出した上で、「あちらが3人、あたし入れて4人。後から遅れてもうひとり、3つあまる…」などと計算していきます。
そして、不意に前の座席の下のボルトを見る。ボルトを見ていると、連想が働いて「まわすのに どれくらいの 力が入るんだろう」と次第にねじ回しのイメージにズームアップしていき、このへんから発想が飛んでいきます。なぜか、油さしがあって、何だか分からないでっかい機械がガッタンガッタン動いているイメージになり、この機械が下から「ゴー」という音を立てて上がってきます。で、じつはこれはファスナーで、それを上まであげて襟を折る、というところで見開きが終わるのです。
ふつう、こんなことをわざわざ作品にしようとは思いませんよね。そもそも、こういうことを日常で経験しても、大抵はすぐに忘れてしまいます。けれど、彼女はふとした瞬間に、自分の想念がぜんぜん脈絡なく運んでいくイメージとか、その時間経過についてこれだけのコマと手間を使って描いている。それは、とても豊かで創造的なことなのではないでしょうか。
今週のおとめ座もまた、そんな風にふとした瑣末な日常の瞬間にこそ、もっとも味わうべき価値があるのだということを改めて実感していくことになるでしょう。
おとめ座の今週のキーワード
「ふと…」を味わう