おとめ座
ネゴるぞ
「八月」という言葉
今週のおとめ座は、『紙飛行機になる八月のカレンダー』(島津優人)という句のごとし。あるいは、言葉の古い使い方を新しいそれへと向け変えていくような星回り。
2013年の俳句甲子園の優秀作より。戦後日本において「八月」と言えば、それはかつての悲惨な戦争体験とほとんど無条件に結びつけられてきました。
ところが、作者にとって「八月」とはあくまで夏休みの季節であり、掲句も過ぎ行く青春の淋しさについて詠んだものとして、出場した高校生たちに読み取られたのだといいます。
かように当事者としての戦争の記憶は現代日本においてますます薄れつつありますが、それでも記憶をまったく共有しえない未来の若き世代へと「八月」という言葉そのものは着実に受け継がれていく。そう、まるで古くなったカレンダーが「紙飛行機」へと姿を変えて、すいーっと水平移動していくように。
そうして「八月」という言葉の受け取り方もその時どきでどんどん変わっていくし、呪いとも恩寵ともなっていくでしょう。そして、それこそが自分の意思とは無関係にこの世に産み落とされた子どもたちに許された唯一の自由なのかも知れません。
20日におとめ座から数えて「義務と奉仕」を意味する6番目のみずがめ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、過去の世代の人たちの祈りをいかに未来へ向けて、自分の手で届け直していけるかということに、おのずと引き寄せられていくはずです。
「言向け和す(ことむけやわす)」
『古事記』には、「語問(ことと)ひし/磐根/樹根立(きねたち)/草の片葉をも語止めて」という定型的に現れる表現が登場しますが、これはそもそも岩や木の根や草や葉っぱのすべてが言葉を発していたという状況があって、それらが言葉を発することをやめた後に、「天孫降臨」が実現したということが示唆されています。
そして、そうした言語的統一の位相へと事態を差し向けることを「言向け和す」と言っているのですが、これは一見すると何を言っているのかよく分からない草木に対して一方的に圧力をかけて従わせるのではなく、ある種のネゴシエーションを通じて相手を和らげていこうとする態度が根本にあり、そうした「言向け和す」ための人間の試みこそ歌や歌謡の原初の姿だったのです。
当然、そうした試みはつねに成功した訳ではなく、むしろ失敗することの方が多かったのではないでしょうか。それでも、そうした歌こそが国の基礎であり、古代において一国の主たるものはみな歌を歌うことでおのれの義務と奉仕を果たしたのだと言えます。
今週のおとめ座もまた、日ごろなかなか言葉にならない思いをどれくらい言葉にして、伝えるべき相手に伝えていくことができるかがおおいに問われていくでしょう。
おとめ座の今週のキーワード
古代的な国の主の仕事