おとめ座
罠から脱け出す獣
欲望の底なし沼のふちにて
今週のおとめ座は、自分がまだ知らない深い深い快楽というまぼろしのごとし。あるいは、自分が手を伸ばしかけているモノの正体について看破していこうとするような星回り。
大都市というのは、経済の中心地であると同時に、快楽と幻想と記号の世界であり、経済を回すための欲望が無限に喚起され続けるよう出来ています。そして、そうした街に身を置いていて、「まず狂うのは金銭感覚だ」と言い切っていたのは、18歳で九州から上京し、36歳で『東京を生きる』というエッセイ集を出したライターの雨宮まみさんでした。
のっけから「東京に来て、私は「お金がなければ、楽しいことは何もない」という宗教に入ったのだと思う」というあけすけな言葉に面食らうのですが、彼女は続けて次のように書いています。
過激なことを望んでは、ほんとうに満たされることを、もしかしたら自分は知らないのかもしれない、しらないからこんなに求めてしまうのかもしれない、と不安になる。
その意味で、東京のような大都市の怖さの正体とは、あまりに深い欲望の深淵に触れていく中で自分が溶けてなくなってしまうということに尽きるのではないでしょうか。
自分の知らない深淵が、そこにあるのだと感じる、私なんかの知らない、深い深い快楽の世界が。そんなもの幻だと、絶対に手に入らないものだと、思いきれたらどんなに楽だろうか。でも、東京ではそれはいつも目の前にある。(…)それに向かってどのように手を伸ばせばいいのか、私にはまだわからない。でも、きっと、最初はどこかのカウンターで、誰かの手に向かって、手を伸ばすのだろう。
6月29日におとめ座から数えて「侵犯」を意味する8番目のおひつじ座で下弦の月(意識の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、自分の知らない深い深い快楽へと手を伸ばしていくことの恐ろしさに、改めて思い至っていくことになりそうです。
人間的無知を脱け出す
世界的な大数学者である岡潔と、日本を代表する批評家である小林秀雄のあいだで交わされた対談集『人間の建設』の「人間と人生への無知」という章のなかで、次のようなやり取りが交わされています。
岡「(…)時というものがなぜあるのか、どこからくるのか、ということは、まことに不思議ですが、強いて分類すれば、時間は情緒に近いのです。」
小林「アウグスチヌスが「コンフェッション(懺悔録)」のなかで、時というものを説明しろといったらおれは知らないと言う、説明しなくてもいいというなら、おれは知っていると言うと書いていますね。」
岡「そうですか。かなり深く自分というものを掘り下げておりますね。時というものは、生きるという言葉の内容のほとんど全部を説明しているのですね。」
注目すべきは「説明」と「知らない」という言葉の使い方であり、おいそれと人に説明することなんかできないという境地をきちんと大事にしているかどうかを、岡が「かなり深く自分というものを掘り下げて」いるという風に捉えている点です。
今週のおとめ座もまた、本当に危ないこと、知っておくべきことを再確認していくことがテーマとなっていくでしょう。
おとめ座の今週のキーワード
難しいことを分かりやすく言う時に、抜け落ちてしまうものを大切にすること。