
おとめ座
気配と素顔

不安の出どころ
今週のおとめ座は、『どことなく傷みはじめし春の家』(桂信子)という句のごとし。あるいは、平和で甘い予定調和的な関わりを打ち破っていくような星回り。
「どことなく」と言うのですから、具体的に雨漏りしたとか、ドアの建付けが悪くなったとか、ガラスが割れたという訳ではないのでしょう。どこなのだかはよくは分からないのだけど、どこかが確実に傷んできたという“気配”がするのです。
だから緊急でせっぱつまって修理する必要もないのですが、「どことなく」不安になってくる。あたたかで、のどかな春の日差しのなかの、一見平和な環境のなかの「春の家」だからこそ、かえってこうした漠然とした不安も際立つのかも知れません。
春愁というものには、どこか甘い響きがあって、ともすると句の詠み手側もそれに溺れてしまうようなところがありますが、掲句にはそうした過度にロマンティックな調子に飽きてしまったような、ぽろりとこぼれ落ちてきたような諦念のかげや不機嫌さのようなものが感じられます。
平穏で円満なだけの家庭なんて、あるわけないじゃないか。傷んでいるのは、いや、とっくに傷んでいたのは、家ではなくて、そこに住む家族の心だよ。そんなのどの奥の方から絞りだすかのようなかすかな声が聞こえてくるようです。
同様に、4月9日におとめ座から数えて「埋葬された感情」を意味する8番目のおひつじ座で新月(皆既日食)を迎えていく今週のあなたもまた、一度はなかったことにされ、覆い隠されてしまった感情と再び向き合っていくことになるでしょう。
仮面と亀裂
日頃より懸命にこの世を生き、サラリーマン役であれ、恋人役であれ、家事と仕事を両立するシングルママ役であれ、演じている役柄に熱心に打ち込めば打ち込むほどに、「本当の自分は何者なのか?」といった問いは、どんどん忘れ去られていく。というより、そうした忘却こそがこの世でうまく生きていく上での大前提なのです。
しかし時折、役柄上の自分は本当の自分自身ではないのだということを、ふと感じてしまうことがあるはず。そして、一度それが出てきてしまうと、目の前で展開されていく現実劇や演技においてNGを出したり、これまでスムーズに乗れていた脚本に乗れなくなったり、慣れ親しんだ日常舞台が、とたんに嘘っぽく、居心地の悪いものになっていく―。
これからしばらくの間、おとめ座の人たちはこれまで当たり前だと思っていた日常にふとしたきっかけから亀裂が入り、そこからニョッキリと顔を出してくる違和感や不安が無視できなくなった時、どうするべきかが問われていく機会が増えていくでしょう。
それは掲句のような漠然とした不安の気配が濃くなる時期である一方で、いろいろなしがらみから離れ、“素顔”の自分を模索していける自己解放のチャンスともなっていくように思います。
おとめ座の今週のキーワード
ぽろりとこぼれ落ちてくるものに手を伸ばすこと





