おとめ座
ふよふよの連鎖
消費的な構えを解いて
今週のおとめ座は、『さり気なく聞いて身にしむ話かな』(富安風生)という句のごとし。あるいは、身をもって周囲に秋をもたらしていこうとするような星回り。
「身に入む(みにしむ)」は、ことに秋風と結びついてもののあはれをいう歌の言葉として用いられ、俳諧ではそれに加えて、秋の冷気を身に沁みとおるようにしみじみ受け取るさまを表すようになった秋の季語。
掲句では「さり気なく聞いて」とありますから、感情をおもてに出さずにさらりと受け取っておいて、という態度なのでしょう。しかし、内面的には相手の話は深く心の中に入り込んで複雑な反響音をもたらすものだった、という訳です。
あっさりとした仕立てながらも余韻のある一句ですが、現代ではむしろこれと逆のことがあちこちで常態化しているように感じます。つまり、その場での態度としては強い言葉を用いたり大げさなリアクションをとっているものの、次の日にはすっかり忘れてしまって、別の話題で盛り上がっている。特にSNSなんかではその傾向が顕著ですね。
仮にそうした物事への向きあい方を「消費的」なモードとするならば、掲句のようなモードは何と呼んだらいいのでしょうか。ただ単に「生産的」と呼ぶのもけったいな気がするので、秋風になぞらえて「涼やか」なモードと呼んでみるのもいいかも知れません。
8月31日におとめ座から数えて「関わり方」を意味する7番目のうお座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、人であれ出来事であれ、まずはほっと息をついてから涼やかに迎え入れていくことがテーマとなっていくでしょう。
「ふよふよ」
オノマトペは、時にどんなに多くの言葉だったり、工夫に工夫をこらした表現よりも、言葉が直接染み込んでくる感覚を引き起こしていくことがあります。
中でも、風が草木を微かにそよがせる時の「そよそよ」とも、筋肉と何ら連動しない柔らかい肉が震えながら、その震えだけを波紋のように広げていく「ぷよぷよ」ともどこか異なる「ふよふよ」という言葉は、「身に入む」という言葉と同じくらい、今のあなたを象徴しているのではないでしょうか。
「ふよふよ」とは、例えばほとんど重さというものを欠いた小さな羽虫が微細に揺れ動くときの擬音語です。そして、はかなくて脆弱で、思わず後ずさりするような異質を秘めた、未知の振動体をも予感させますが、おそらくそれに続く行動には戦略性や駆け引きといったものはほとんど含まれないでしょう。その意味で、じつに「涼やか」な在り方を指しているのだとも言えます。
今週のおとめ座もまた、自分でも不可解な名状しがたい消息を求めて、ふよふよと世に、人に対していくべし。
おとめ座の今週のキーワード
透明な微細力をもって大勢の論理を超越していくこと