おとめ座
はみだし者のうた
孤独を持て余した人間の像
今週のおとめ座は、『蟇(ひき)歩くさみしきときはさみしと言へ』(大野林火)という句のごとし。あるいは、みずからの弱さや不完全さを引き受けていこうとするような星回り。
「蟇」はヒキガエルないしガマガエルのこと。「蟇」が夕暮れ時に道の真ん中あたりに鎮座していて、ギョッとした経験のある人も少なくないはず。
妖怪のような見た目に、近づいてもなかなか逃げないどころか、無反応だったりするので、よけいに不気味に感じるのですが、毒も持っておらず、蚊などの虫を捕食するだけの実に温厚で無害有益な平和な生きものなのだそう。
そんな「蟇」がのそりのそりと道のはしっこへと動いている様子を見かけ、作者は思わず、さみしいのだったら、黙ってやせ我慢していないで「さみしと言へ」と声をかけたくなったというのです。おそらく、このとき作者自身もまたやはり何かしら「さみしさ」に耐えていたのでしょう。
つまり、さみしげに歩行する蟇の姿に呼びかけることで、作者は自身をはげましていたのであり、掲句における蟇=作者のうしろ姿は、孤独を持て余した人間そのもののカリカチュアとも言えるのではないでしょうか。
5月28日に自分自身の星座であるおとめ座で上弦の月を迎えるべく光が戻っていく今週のあなたもまた、掲句の作者のように、自身を受け入れるのにふさわしい似姿を見出していきたいところです。
「アゲンスト・ネイチャー」としての人間
心理学者の河合隼雄がどこかでユングの言葉として「ヒューマン・ネイチャーはアゲンスト・ネイチャーだ」という言葉を紹介していましたが、コロナ禍が地球を我が物顔で搾取し続けてきた人間たちを黙らせるようになってから、しきりとこの言葉が思い出されます。
感染症やウイルスもひとつのネイチャーだとしたら、それらと抗うことで生き延びようとしている人間たちはまさに「自然に逆らう存在」としての「アゲンスト・ネイチャー」に他ならないはず。
もちろん人間は矛盾した存在ですから、どこかで自然と同調し、自然のために(フォー・ネイチャー)存在している部分も持ち合わせていますし、そうでありたいと願って菜食主義を貫いたり、リサイクルへの配慮を心がけている人も多い訳ですが、それでも、どうしたって自然に逆らい、彼らとの調和からはみだしてしまう。それを悪だ罪だと見なし過ぎれば、私たちは満足に日常生活を送ることができなくなってしまうでしょう。
その意味で、今週のおとめ座もまた、どうしたって不自然にはみだしてしまう自分自身を受け入れ、改めて肯定していくことがテーマとなっていきそうです。
おとめ座の今週のキーワード
「ヒューマン・ネイチャーはアゲンスト・ネイチャーだ」