おとめ座
ただ邁進あるのみ
自分なりの理想
今週のおとめ座は、『藪の中冬日見えたり見えなんだり』(高浜虚子)という句のごとし。あるいは、一般的にはよくわからないところまで突き抜けていこうとするような星回り。
一見すると意図が見えにくい一句。まず「冬日」という季語には、①冬のあたたかな日差し、②冬のよわい太陽、③いかにも冬らしい一日、という3つの意味がありますが、「藪の中で見えたり見えなくなったり」するとありますから①か②でしょう。
藪の中を進み歩いているのか、冬日の照り曇りの移ろいを眺めているのか、いずれにせよ、ゆっくりと過ぎゆく冷えた時空間のなかに作者は溶け込んでおり、その情景のなかで、どこかふぬけたような、それでいてぬくもりを持った「冬日」の存在感が際立ってくる…。
ここで「だから何なの?」とツッコミたくなる人もいるかも知れませんが、俳句は言葉の意味のつながり以上に、それがつくりだす響きを味わい、その響きの指し示す方向性を探るなかで、なんとなく抱いていた期待が裏切られたり、思いがけない境地へと連れ出してくれたりするものだということに、ここで改めて思い至りたい。
例えば作者は、若い時分に「ボーっとした句、ヌーっとした句、ふぬけた句、まぬけな句」が理想であると提唱していましたが、掲句は晩年に入った作者がそうした理想にやっと到達した一句なのだとも言えます。すなわち、言葉はなんの難しさもないくらい簡潔なのに、どこか世間ずれしていく感覚をとらえ、みずからそれを楽しんでいる。作者はそういう境地で「冬日」を相手に我を忘れて遊び呆けていたのかも知れません。
その意味で、11月30日におとめ座から数えて「対象との関わり方」を意味する7番目のうお座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、いつも以上にドライブをきかせてこれと決めた相手や対象とどっぷり関わっていくべし。
滑稽と颯爽のはざまに立つ
中世のヴェネチアを舞台にした『抜け目ない未亡人』という戯曲があります。あらすじは、財産家と結婚した後、夫と死別した若き未亡人が、再婚でもう一花咲かせようと奮闘するのですが、その際フランス、イギリス、イタリア、スペインの男達を見並べて、各国の女性たちに化けてこなをかけ誰が一番誠実な男かを試していくというもの。
それはさながら、鳴かないホトトギスを前に、殺すか、待つか、鳴かせてみせるかを案じる戦国大名かのよう。要は始めからいちゃもんをつけるつもりで男達に対しているのです。
どこか未亡人だけが力み返っているような滑稽さと、女としての意地を貫こうとするいじらしさとが混じり合って、何とも言えないアンビバレントな感情が生まれてくるお話なのですが、不思議なのは、話が進んでいくうちに、どこかそんな未亡人に颯爽たる勢いのようなものさえ感じられてくるところ。
それは、花のように大事にされる“べき”といった従来通りのよくありがちな女性像をかなぐり捨て、一花咲かせるという目的へみずから真っすぐに邁進しているからなのかも知れません。
同様に、今週のおとめ座もまた、滑稽を通り越したところにある颯爽へと至れるかということが、ひとつのテーマとなっていくでしょう。
おとめ座の今週のキーワード
思いがけない境地への邁進