おとめ座
欠損に惹かれて
“いかがわしさ”の発生源
今週のおとめ座は、ありふれた冷蔵庫の写真のごとし。あるいは、自身の周囲に漂っている“いかがわしさ”の元に目を向けていくような星回り。
潮田登久子という写真家が『冷蔵庫』という写真集を出しており、そこには57軒のありふれた家庭の冷蔵庫が映し出されています。
どこの家庭にでもある、ありふれた冷蔵庫。それが家のなかへどんな風に溶け込み、また、どんなものがどのように収容されているか。扉にはメモがマグネットで留められていたり、たくさんのシールが貼られていたり、かと思えば神棚が冷蔵庫の上に置かれているいたり。缶ビールが数本並んでいるだけの空虚な中身もあれば、惣菜でパンパンとなり今にも中身が溢れ出してきそうな場合もある。
そして巻末には、それぞれの家々の家族構成や職業、家のつくりなどのデータが示されるのです。そうした些細な事実の積み重ねや組み合わせは、おそらくそこに暮らしている家族の外面以上に彼らの本質を表しており、往々にして外面とのあいだに何らかのギャップがあることに気が付かされます。
そしてそうしたギャップに漂うある種の“いかがわしさ”こそが、その家庭ごとの無意識的葛藤であり、面白味であり、写真集の眼目になっているわけです。
その意味で、7月20日におとめ座から数えて「隠されたもの」を意味する8番目のおひつじ座で下弦の月(意識の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、自身の家の冷蔵庫と外面とのギャップに潜む魔物とおのずと視線があっていきやすいでしょう。
欠損を回復するために
幼児の天使性が最大になる瞬間は、間違いなく彼らが顔に微笑みを浮かべた時に他なりませんが、心理学者ルネ・スピッツは、そうした彼らの微笑みがどこから出てくるのかを「アナクライズ(anaclyse)」という概念を使って説明しようとしました。
生後間もない幼児は、身体的な温かさやお乳を求め、お母さんに近づいていきます。そして、自分のくちびるがお母さんの乳房に接触した瞬間に、彼らは表情に笑みを浮かべる。
スピッツはこのプロセスの始まりを、子どもが母親の胎内にいたときに与えられていた条件が、外界に出たときに「欠けた」と認識した瞬間に求めます。幼児が泣くのは、その不快を表現するためであり、不快感を原動力にして元の状態を回復しようと、母親へと自分の欲望を向けていく。この幼児の呼びかけを「アナクライズ」と呼んだのです。
幼児の欲望は、母親の乳房といういわば柔らかいクッションに接触した瞬間に、四方八方に波となって広がっていく。そしてこの波の広がりを、幼児はあの笑いに変換しているのだと。つまり、幼児特有の天使のような微笑みは、不快感を原動力にした回復への欲望に端を発するものであり、それは彼らの負った「運命的な欠損」に対する反動でもあった訳です。
これほど純粋で、知的判断を排した動機はないのではないでしょうか。そして、もしかしたら、今週のおとめ座が求めている体験もまた、そういうものなのかも知れません。
おとめ座の今週のキーワード
不快を原動力にして