おとめ座
おのれをバリ3にする
アンテナとしての「少女のひげ」
今週のおとめ座は、『ほのかなる少女のひげの汗ばめる』(山口誓子)という句のごとし。あるいは、おのずから自身の何かがうごめき、躍動していくのをジッと待っていこうとするような星回り。
かつて女性にひげがあると断言してはばからなかったのは、しりあがり寿の『ひげのOL薮内笹子』くらいしか思いつきませんが、すこし冷静になってみると、この場合の「少女のひげ」とは「うぶ毛」のことでしょう。
あかるい日差しによってうっすらと浮かび上がった湿り気をおびて光るうぶ毛のことを、「少女のひげ」と呼んでみたかっただけのような気もしますが、それを「汗ばめる」と結んでいくところがまたすごい。
薮内笹子の場合は、真実の愛を見つけるまでヒゲを剃らないと決めた上での確信犯ですが、掲句の場合はそうではない。ファッションとしてそこにあるのでも、何か特定の目的のために使役されている訳でもない。だからこそ、余計に「少女のひげ」がまるで生きて呼吸しているかのように感じられるのかも知れません。
同様に、7月14日におとめ座から数えて「生きている証し」を意味する5番目のやぎ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、自身を「何のために」といった目的論的な文脈から外れたところに置いてみるべし。
脳ではなく腹の奥に従うべし
人間は極限状態に置かれると、身体のエネルギーが自然と増大し、日常的には知覚や理性、常識といった枠組みに覆われて意識さえしていなかったものが溢れ出していきます。これは事故や病気などで生死の境ををさまよっているような場合でも起こりますし、断食をはじめとするヨガや修験道の行など、意図的に引き起こしていくことでも可能なのですが、例えばメスナーという人物はそれを登山で行ってしまいました。
彼は人類で最初に無酸素で8000メートル級の山を全て制覇した伝説的人物であり、その著書には極限状況がどんな感覚をもたらし、何が鍵となるのかについて書かれています。
あの頂上間近で目覚めていたのは私の脳ではなかった。むしろ腹の奥深く、肉体のずっと奥にまだセンシブルな何かがあったのだ。
本質的な役割を演じられるのは山の高さではないし、ルートの難度ではさらにない。登山から得られる経験にとって決定的なのは開かれた感性だと私は思う。そして例外的な場合であるが、人間存在の極限的領域に踏み込むことだと思う。(ラインホルト・メスナー、『死の地帯』)
今週のおとめ座もまた、メスナーにならって「開かれた感性」をもってここぞというところで「踏み込むこと」を選択していきたいところです。
おとめ座の今週のキーワード
身体が潜在的に向かいたい方向へと赴いていく