おとめ座
自分より賢いかも知れない存在
秘められた交情
今週のおとめ座は、「鰯雲ある日の海豚調教師」(四條五郎)という句のごとし。あるいは、誰にも邪魔されない愉しい時間をしかと確保していこうとするような星回り。
「鰯雲(いわしぐも)」とは、台風や移動性低気圧が多く近づく秋に特に多く見られるうろこ状の雲のこと。
今ではどこの水族館でも、イルカ(海豚)のショーは目玉のひとつであり、他のゾウやトラなどの猛獣と比べても、あまり痛々しさを感じさせない明るい印象が感じられるのは、どこかでイルカたちがそれを楽しんでいるのが伝わってくるからでしょうか。
ただ、掲句の「ある日」は、すでに夏の賑わいが過ぎた、涼やかな秋の一日であり、そこには見物人の気配は感じられません。むしろ、開館前の朝のひとときや、休館日とも考えられますが、いずれにせよ調教師とイルカだけの密やかな交情のときが連想されます。
それはイルカにとっても、調教師にとっても、なにものにも代えがたい至福の時間だったのでしょう。作者はそんな光景を垣間見て、おそらく微笑をこぼしながら、静かに立ち去ったにちがいありません。
13日におとめ座から数えて「私的な楽しみ」を意味する5番目のやぎ座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、ふふふのふ。
『銀河ヒッチハイク・ガイド』のイルカ
私たちは「人間は地球上で一番賢い」と無意識のうちに思い込んでいますが、もしかすると実はめちゃくちゃおバカな種族で、他の種族も口に出さないだけで日夜そう思っているのかも知れません。
ダグラス・アダムスのおバカSF『銀河ヒッチハイク・ガイド』は、まさにこうした感覚をひとつの物語に仕立てた傑作であり、そこには滅亡の危機が差し迫った地球の状況にいち早く気付いていたイルカたちが、脱出前に人間たちに別れを告げるシーンが登場します。
彼らの最後のメッセージは、フープをくぐり抜けながら米国国歌をハミングしつつ二回転後方宙返りを決める洗練された“芸”として誤解され、たくさんの観客に拍手と笑顔でもって迎えられるのですが、実際の内容は「さようなら、今まで魚をありがとう」というものでした。
つまり、食料供給のためにずいぶん役に立ってくれたけれど、ついに自分たちのメッセージを真剣に受け取ってくれなかったね、という訳です。果たして、この話をあなたは笑えるでしょうか?
今週のおとめ座もまた、そんな自分よりずっと賢い(かもしれない)イルカのような存在と愉しくも真剣な交友を結んでいくべし。
おとめ座の今週のキーワード
イルカは地球上で二番目に賢い存在で、一番賢いのはネズミ