おとめ座
未来に戻る
余計なことは考えず
今週のおとめ座は、「次の間へ湯を飲みに立つ夜長かな」(岡本癖三酔)という句のごとし。あるいは、時間をかけるべき事柄と時間のかけ方とを丁寧に洗練させていくべし。
無内容に近い一句。だがそれがいい。江戸や明治くらいまでの俳句には、一句のうちに過剰に要素を詰め込まず、ひとつの対象や要素をじっくりと味わう独特の時間の流れを感じさせるものが多いですが、ここでも過剰な感情は控えられ、ただ平易な言葉が並べられているのみ。
「次の間へ」「立つ」とありますから、夕食後ずっと坐って読者か執筆に入れ込んでいたのでしょう。不意に渇きを覚えて、のどを湿らせに行く。飲むものも特別なものではありませんが、水ではなく、温かい「湯」であるところに、空気の冷えを感じさせます。
そして、次の間までのほんの少しの移動に十二音をかけたことが、かえって「夜の長さ」とその静けさとを際立たせるのです。
8月30日におとめ座から数えて「取り組むべきこと」を意味する10番目のふたご座で形成される下弦の月から始まる今週のあなたもまた、時間をかけて丁寧に取り組んでいくということの極意を、作者のように上手に取り込んでみるといいでしょう。
引いて、越すということ
私たちはふだん、何も考えず生きていても自動的に過去から未来に移っていると思ってしまっていますが、これはとんでもない勘違いです。
先の「次の間へ」という移動は、ある種の「引っ越し」に置き換えることができますが、引っ越しとは過去から未来に「引いて」、「越す」と書きます。これはつまり、生きるということが絶えず「バック・トュー・ザ・フューチャー(未来に戻る)」プロセスであるということの端的な表れなのだということ。
そして、今週のおとめ座もまた、これまでの古い間から身を「引いて」、来たるべき新しい間へと「越して」いかなければならないんです。
そうしないと古い自分に閉じ込められ、過去に自分が作り出した残像に執着して、迷いの世界にさまよい込んでしまう。それが「のどの渇き」の正体とも言えるのかも知れません。
そういう意味で今週のおとめ座は、幸せの在り処(いま・ここ)が過去にではなく、未来からやってくるものなのだと思い直し、「引っ越し」していくものなのだということを、改めて実感しなおそうとしているのだとも言えるでしょう。
おとめ座の今週のキーワード
頭をなくしていく