おとめ座
星の時間の到来
スイッチが切り替わっていく
今週のおとめ座は、「翡翠は流れをかつと涼しくす」(長倉いさを)という句のごとし。あるいは、仮定された有機交流電燈の明滅を感じとっていくような星回り。
「翡翠(かわせみ)」は、渓流などで水中の魚を狙う翡翠色の鳥で、高いところから急降下して、魚をたくみに捕らえることで知られています。
そして、翡翠がその川に棲んでいるかどうかは、川の清濁や、公害の有無を決定付けるバロメーターともなるそうですが、確かにあの鳥のいろどりは清流にふさわしいものと言えます。
この句は、おそらくそんな翡翠が突然目の前をよぎり、瑠璃色の羽をひるがえして水面すれすれに飛び去った一瞬の印象を詠んだもの。特に作者は「かつと」という言葉で、まぶしいばかりの夏の日差しを負って飛翔する翡翠の姿と、水面が乱反射してきらめいてるさまとを同時に捉えています。
それ以前と以後とで世界がまったく別物に見えてしまうような一瞬の涼感。それは五感を包んでいるより大きな自分の気配が強まった何よりの証しであり、世俗的な自分が相対化されていく際の一つのサインでもあるはず。
10日におとめ座から数えて「世俗での役割」を意味する10番目のふたご座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、関わっていかざるを得ないしがらみの在り様がカチリと切り替わって決定的な一歩を踏み出す瞬間を迎えているのだと言えるでしょう。
鳥のさえずりのように
あえて言ってしまえば、決定的な一歩の踏み出しとは、感情が溢れて思いがけず声をあげ、その勢いのままに歌をうたいはじめてしまうことにも似ています。
それは、新たなメロディがこの宇宙が生まれる瞬間であり、宇宙も人生もそうした生きた旋律がたえず流れることで成り立っているのです。
暗闇に幼児がひとり、恐くても、小声でうたえば安心だ。子供は歌に導かれて歩き、立ちどまる。道に迷うことがあっても、なんとか自分で隠れ家を見つけ、おぼつかない歌を頼りにしてどうにか先に進んでいく(ドゥルーズ&ガタリ、『千のプラトー』)
あるいは、シモーヌ・ヴェイユが「肉体的な呼吸のリズムと宇宙の運行リズムとを組み合わせることが必要である」とも書いていましたが、翡翠がさえずるのも、人間が歌をうたうのも、そんな必要に突き動かされているという意味では同じなのではないでしょうか。
歌うように歩をすすめるには、また自身のありのままの姿を愛しつつ歩き続けるためには、いったい何が必要なのかということを、今週は身をもって感じてみてください。
今週のキーワード
時計の時間と星の時間(『モモ』)