おとめ座
早乙女と渦巻き
女たちのエロばなし
今週のおとめ座は、宮本常一の『忘れられた日本人』に登場するエロ話に花を咲かせる女たちのごとし。あるいは、健全なおおらかさを取り戻そうとしていくような星回り。
1950年代に連載された「年よりたち」を一冊の本にまとめた民俗学者・宮本常一の『忘れられた日本人』には、共同体の大きな紐帯をなしていた女性の役割、特に彼女たちの世間話から笑い話が生まれてくる過程について述べられています。
作物の生産と、人間の生殖を連想する風は昔からあったとのことですが、田植えの時の女たちの話にはそういうものが特に多かったそうで、
「見んされ、つい一まち(一枚)植えてしもうたろうが」「はやかったの」「そりゃあんた神さまがお喜びじゃで……」「わしもいんで(帰って)亭主を喜ばそうっと」
こうした話の中心になるのは大抵元気のよい四十前後の女だったそうで、宮本も「若い女たちにはいささかつよすぎるようだが話そのものは健康である。早乙女の中に若い女のいるときは話が初夜の事になる場合が多い」と書いていますが、重要なのは次の箇所です。
「そしてこうした話を通して男たちへの批判力を獲得したのである。エロ話の上手な女の多くが愛夫家であるのがおもしろい。女たちのエロばなしの明るい世界は女たちが幸福である事を意味している。(中略)女たちのはなしをきいていてエロ話がいけないのではなく、エロ話をゆがめている何ものかがいけないのだとしみじみ思うのである。」
20日におとめ座から数えて「制限の解除」を意味する12番目の星座であるしし座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、自分や周囲の人間が幸福でいられるために解除していくべき「ゆがみ」とは何だろうかということをよく考えてみるといいでしょう。
文字さえも捨てて
ケルトはキリスト教以前に中西部ヨーロッパに住み、ケルト語を話していた民族で、相当な文明を持っていたにも関わらず、文字をもたないことや強力な大国をつくる意図がなかったこともあって、キリスト教文明によってだんだんと消滅させられていきました。
では、そんなケルトのどんなところが面白いのか。例えば、鶴岡真弓さんと辻井喬さんの対話『ケルトの風に吹かれて』の中で、辻井さんは次のように述べています。
「ケルトの文化のあり方として非常に面白いなと思ったのは、中心というのかな、これがケルト文化のメッカである、中心だというのがないんですね。それは、なくて当然で、遍在しているのですから、中心があったら近代的になってしまう」
ケルトは渦巻き模様をとても大事にしていたけれど、それは絶対的な中心を作って、それへの関係に基づいてすべてを明確に区別していくという西洋的なモデルとは対極にある、あらゆるものが互いに絡み合いつつ絶えず全体を変え続けていくという「脱中心的」な世界観こそが彼らの根本だったからでしょう。
今週のおとめ座も、近代文明をいきなり捨てるのは無理でも、どこかで渦巻き模様のように自身を解体しつつ、ケルト的なものを取りこんでみるとといいかも知れません。
今週のキーワード
存在とのダンス