おとめ座
切実であるということ
ツキとタニ
今週のおとめ座は、「北斗星七つと月といま谷間」(杉田久女)という句のごとし。あるいは、みずからの心の拠り所がさえざえと光り輝いていくような星回り。
作者は近代俳句における最初期の女性俳人で、格調の高さと華やかさのある句で知られた人。しかしその一方で、主に絵を描かなくなった夫への失望と文芸の道への目覚めをきっかけとした家庭内不和や、師である高浜虚子との確執、そして精神病院での死など、その悲劇的な人生でもよく知られる伝説的人物でした。
掲句は、精神病院に入ってから死までの3カ月のあいだに詠まれたもので、厳しい冬空で「七剣星」とも呼ばれた北斗七星とともに、普段よりどこか鋭く光る月の姿に、おそらく自身の俳人として至った、いや至るべき境地を見ていたのではないでしょうか。
それは「いま谷間」と自身の暗い現実を直視するまなざしによって、いよいよ高みにのぼり、作者にとっても読者にとってもより決定的なものとして胸に刻まれていきます。
いま谷間、されど月は高きにのぼりゆく。そこには師への思いも重ねられていたのかも知れません。虚子は後に九州の観世音寺を訪れた際に「冬の山久女死にたるところとか」という句を残しました。
2月18日におとめ座から数えて「仰ぎみるべき境地」を意味する9番目のおうし座に位置する天王星(覚醒)が土星(制限)と90度の角度をとって激しくぶつかりあっていく今週のあなたもまた、それくらいの切実さをもって自身の精神的な拠り所をしかとまなざしていくことになるでしょう。
二つの世界の呼応と調和をはかる
掲句を詠んだ杉田久女は、どこか池澤夏樹さんの小説『スティル・ライフ』に出てくる「佐々井」のようでもあります。
この小説は、染色工場でバイトしている主人公の「ぼく」が、佐々井という宇宙の話をしたがる一風変わった男と出会い、とある不思議な仕事を頼まれるという短い物語。
「少なくとも、彼はぼくと違って、ちゃんと世界の全体を見ているように思われた。大事なのは全体についての真理だ。部分的な真理ならいつでも手に入る。」
ただ、人と人とが出会う現場には喜びもあれば失望や思い違いもつきもの。「ぼく」は佐々井の「遠方を見る精神」に共感を覚えたものの、次第に見えてきた彼の現実的な顔に改めて距離を感じていくのですが、それでも、と思い直すのです。
「大事なのは、山脈や、人や、染色工場や、セミ時雨などからなる外の世界と、きみの中にある広い世界との間に連絡をつけること、一歩の距離をおいて並び立つ二つの世界の呼応と調和をはかることだ。
たとえば、星をみるとかして。」
今週のキーワード
地に足をつけて、はるか遠方を仰ぐ