おとめ座
織物としての日々の営み
抽象の力
今週のおとめ座は、「すべてのものの意味を貫く糸」を通していくよう。あるいは、日常を縦糸と横糸の織物として捉え直していこうとするような星回り。
「私は夜明けに起きるのが好きなの」。20世紀アメリカを代表する女性画家ジョージア・オキーフは、1966年、79歳当時に行われたインタビューにおいてそう答えています。
60を越えてから100歳近くで亡くなるまで、ニューメキシコ州の砂漠に住み続けたオキーフは、早朝に30分の散歩をしてから7時に朝食をとり、アトリエへ行って正午の昼食をのぞいては一日中仕事をし、16時半に軽い夕食をすませて、たっぷりと大自然の中をドライブをしてから寝るというスケジュールを好んだと言います。ただその一方で、
「絵を描かない日は、生きていくためにしなければいけないと思うことを、あわただしく片付ける。庭に木や草を植えたり、屋根を修理したり、犬を獣医のところへ連れていったり、友人と一日過ごしたり……そういうことをするのは楽しい」(リサ・マインツ・メッセンジャー『ジョージア・オキーフ』)
とも述べているのですが、そうした日常の雑事を踏まえつつ、さらに自身の仕事についてこう結ぶのです。
「でも、ある程度いら立ちは抱えていて、だからこそまた絵を描きはじめることができる。それがいちばん楽しいことだから―ある意味で、そのために他のすべてのことをやっている……絵を描くことは、わたしの生活を作っているすべてのものの意味を貫く糸のようなもの」(同上)
23日に太陽がさそり座に入ると同時に、おとめ座から数えて「リズムとその正確な繰り返し」を意味する6番目のみずがめ座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、自分なりの糸をキュッとしめ上げていきたいところです。
具象の力
おそらくは昭和10年代はじめに書かれた森亮の「野菜サラダを食べたあとで」という詩を引用してみましょう。
「下宿先のさびしいサラダです。
縦に真ふたつにきられた卵は日本画の朧月。
馬鈴薯(じゃがいも)にまだらにまじった薄桃色のソーセージ。
その細切りの一片を取り出して舐めると/気の抜けた甘い味がする。
たまたま噛み当てた卵の殻を/まゝよと噛み砕く、
これがわたくしの夕暮れの勇気です。」
当時としてはまだ珍しかったジャガイモの舌触りや香りが彷彿として、いかにも昔の家庭にある慎ましくはあるが“いき”さを味わわせてくるようで、なんとも嬉しくなる作品です。
「人生いかに生くべきか」という倫理の問題も大切ですが、同時に生きるということは、まさにパンによって生きることで、そのパンの効験について、具体に即して書かれたものには一種の魔力が宿るように思うのです。
今週のキーワード
食事睡眠家事仕事(体基準の優先順位は左からだが頭基準だと右から?)