おとめ座
虚像をとりのぞく
童心で捉える
今週のおとめ座は、「ほんとうのこと」を言おうとした吉本隆明のごとし。あるいは、純心をよみがえらせていくような星回り。
昭和を代表する批評家で思想家であった以前に、ひとりの詩人でもあった吉本隆明は、『詩とはなにか』という本の中で、次のように述べていました。
「詩とはなにか。それは、現実の社会で口に出せば全世界を凍らせるかもしれないほんとうのことを、かくという行為で口に出すことである」
つまり、詩とは、詩情のはたらきそのものであり、虚像をとりのぞいた時に浮かび上がってくるものが大切なのだと彼は考えていたのです。
それは、幻想としての国家の成立を描いた国家論である全共闘世代に多大なる影響を与えた『共同幻想論』が1981年に文庫化された際に書かれた序文でも強調されていました。
「この本の中に、私個人のひそかな嗜好が含まれてないことはないだろう。子供のころ深夜にたまたまひとりだけ眼が覚めたおり、冬の木枯しの音にききいった恐怖。遠くの街へ遊びに出かけ、迷い込んで帰れなかったときの心細さ。手の平を眺めながら感じた運命の予感の暗さといったものが、対象を扱う手さばきのなかに潜んでいるかも知れない。」
詩人が書いたものであれば、大人のための書であっても、その奥底につねに子供時代に感じていた世界との交わりの記憶が生きている、そう言いたかったのでしょう。
2月2日(日)におとめ座から数えて「遠くへ伝えること」を意味する9番目のおうし座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、自分の口や手を通じて「ほんとうのこと」を伝えるべく童心で捉えた世界の記憶をそっと引き出していきたいところです。
あえて隙をつくる
よく武道の世界で「隙をつく」などと言いますが、あれは吐く息と吸う息のあいだというのはもっとも意識のコントロールがききにくく、その一瞬だけまったくの無防備となってしまうため。
それゆえ武道では、できるだけこの呼吸の隙を小さくしていくべく訓練していかねばなりません。
ただ、そうして息を殺し、あるいは息をつめていると、つねに身構えっぱなしの状態となっていきます。
さらに、その状態に疲れてきてしまうと、今度は呼吸から一気に弾力が失われ、いざという時の集中力が落ちたり、あるいは力の抜き方もすっかり下手っぴになる。
何かと身構えることが多く、隙をなくすべく努力を強いられる現代社会では、大人になればどうしても無防備ではいられなくなってしまう訳ですが、今週のあなたは、どこかで失ってしまった「隙」をもういちど取り戻していくことがテーマとなっているのだとも言えそうです。
今週のキーワード
世界との直接的な交わりの記憶