おとめ座
孤独の先にあるもの
息を継ぐべく空を仰ぐ
今週のおとめ座の星回りは、ラジオの時間のごとし。すなわち、時間の平板な水平性を突き破って、自分固有の時間が噴き上げてくるのを待っていくこと。
ラジオはかつて夢のメディアでした。
フランスの哲学者・バシュラールによって1951年に書かれた『夢見る権利』というエッセー集のなかでは、聴いている人たち休息を届けていくラジオは「日常的な仕方で、人間のこころとは何かを提示する」メディアであり、「ラジオには、孤独のなかで語るに必要な一切のものがある」という意味で、「まことに人間のこころ(プシュケ=魂)の全的実現、しかも日常的実現」であるとまで述べられていました。
そうしたラジオに寄せられたかつての期待は、テレビ的なるものが完全に飽きられ、人々から距離を置かれつつある今の時代おいて再び高まってきつつあるように思います。
恐らくそれは、膨大な情報や無意識的な集団心理がうねり続けている現代において、ひとりひとりがその中で溺れることなく泳ぎわたっていくべく、息継ぎの適切なタイミングを伝え教えてくれる何かへの期待とも重なっているのではないでしょうか。
そのためには、まず自分ひとり孤独に過ごす夜を改めて確保していきたいところ。今週のあなたならば、そうした夜のなかで雑音の海から浮上し、そっと星の声に耳を澄ませていくことができるはず。
固有の時間を取り戻す
バシュラールは先のラジオについて言及したのとは別の「詩的瞬間と形而上学的瞬間」というエッセーの中で、次のようにも書いています。
「自分に固有の時間を、他人の時間に帰属させないことに慣れること。自分に固有の時間を、事物の時間に帰属させないことに慣れること」
例えば会社員というのも、本質的には社長の意図を実現させるための歯車の一つに過ぎません。
多くの現代人にとって、他人の時間に帰属させないだけでも大変なことですが、ここではそもそも「経済」であるとか「成功」であるとか、そうした自分とは必ずしも地続きではない抽象的な概念にひもづいた時間にも帰属させないでいることで、私たちは固有の時間を取り戻していくことができるというのです。
ここで言う「固有の時間」を過ごすとは、つまり、自分自身を見失わずに接することができているということ。
それは、必ずや孤独を突き抜けた先にある豊かさに目を開かせてくれるものであるはずです。
今週のキーワード
『死にたい夜に限って』(爪切男、扶桑社)