おとめ座
美意識を取り戻す
言葉の重みはどこから来るか
今週のおとめ座は「ねと言つてやはらかなこと雲に鳥」(高勢祥子)という句のごとし。あるいは、不和や矛盾を柔らかく包み込み、熔かし込んでいくような星回り。
「鳥雲に(入る)」とは、越冬した鳥が北国へと帰っていく春の季語なのですが、それを「雲に鳥」と言い換えるだけで、鳥も雲もこんなにやさしく感じられてくるんだと驚いた一句。
それよりも、冒頭にそっと置かれた「ね」の破壊力といったらもう。
昨今のSNSでは、言葉の抑揚や語尾のつけ方、無意識的な身体動作などでとげとげしくなってしまっている人がますます増えているように感じますが、冒頭の句はまさにその対極にある質感のエッセンスと言っていいでしょう。
「じゃあ、さよなら」ではなくて、「さよならね」。これは思わず「あっ」と心が弾んでしまう。こういう「ね」には、発する相手が不安や疑念にとらわれて、しおしおに心が縮こまってしまわぬように、という祈りがある。
大げさなことを言ったり、執拗なまでに愛を証明しようとしなくたって、たった一言でも伝わるものがあるのだと信じさせてくれる。今週のあなたもまた、そういう言葉の重みについて、感じ入るところが出てきそうです。
不完全であること、美しくあること
人間を含め、あらゆる生き物というのは、この世にすっと誕生したかと思えばあっという間にまたあの世へと帰っていく、ひどくあっけなく、はかない存在です。
ともすると、ネガティブな印象を抱きやすいこうした「はかなさ」について、日本では伝統的にポジティブな意味を与える独自の美意識を育んできました。
「はかないことを夢に見て、美しい取りとめのないことをあれやこれやと考えようではないか。」
「真の美はただ不完全を心の中に完成する人によってのみ見出される。」(岡倉天心『茶の本』)
おそらく、言葉の持つ「重み」というのは、その人がどれだけ「はかなさ」を感じながら言葉を発したかということと少なからず比例するのではないでしょうか。
日本人には、自分や人生の不完全さを感得しつつ、それを想像力の働きによって完成させるという美意識こそが、芸術の世界にとどまらず日常生活全般を規定する一番の規範なのだと思います。
今週のおとめ座は、そうした美意識の観点から自分の言動や人間関係について問い直していく必要に迫られていくでしょう。
今週のキーワード
『「いき」の構造』