おうし座
タナトスな遊び
苦痛の取り返しを楽しむ
今週のおうし座は、フロイトの発見した「Fort-Da」の笑いのごとし。あるいは、ある種の死の状態を積極的に取り返そうとしていくような星回り。
これは精神分析家のフロイトが、あるとき自分の娘から「買い物に行ってくるからその子の面倒を見ていてちょうだい」と、生後1年6カ月になる孫娘と2人きりになった時の実体験から生まれたもので、孫娘はお母さんがいなくなってしまったことに大いに不満を抱いて、ひとりでにある遊びを始めたのだそうです。
何をやったかと言うと、お母さんの使っていた糸巻き車を向こう側にむかって投げたのだそうです。すると糸巻きはクルクルと転がっていって止まる。すると、今度はそれを糸を引いて手繰り寄せるという遊びを繰り返していったんですね。
そのとき、その子は投げるときに「いない!」と言って糸巻きを投げ、自分のもとに返ってくると「いた!」と言って笑ったのだとか。つまり、お母さんがいないという悲しい出来事を糸巻き車の「いた!(Da)」と「いない!(Fort)」の記号に変えて、この記号を操作し、大喜びで笑っている。
フロイトがすごいのは、普通なら象徴はこうして発生すると洞察して終わってしまいがちなところから、さらに一歩踏み込んでここから死の欲動としての「タナトス」を発見していったところ。お母さんが記号の操作のなかでいなくなるたびに、子どもは胸を痛めているはずなのに、その苦痛を楽しんでいる訳で、それは言わば小さな死を楽しんでいるのだと結論付けていった訳です(中山元訳『自我論集』)。
同様に、9月11日におうし座から数えて「小さな死」を意味する8番目のいて座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、そうしたタナトスの欲動がうごめき始めるのを実感していくことになるでしょう。
サヴァイブのお守り
1993年に刊行され、あらゆる自殺の手段を網羅し取りあげた鶴見済の『完全自殺マニュアル』は、10代から20代を中心とした読者層に大反響を呼び、100万部以上を売り上げましたが、その「前書き」には次のような有名な一節があります。
これでやっとわかった。もう“デカイ一発”はこない。22世紀はちゃんとくる(もちろん21世紀はくる。ハルマゲドンなんてないんだから)。世界は絶対に終わらない。ちょっと“異界”や“外部”に触ったくらいじゃ満足しない。もっと大きな刺激がほしかったら、本当に世界を終わらせたかったら、あとはもう“あのこと”をやってしまうしかないんだ。
つまり、自分から死んでしまうしかない。そう促しているかのような一文ですが、本書の「あとがき」を読むと、著者の意図はそれとは別にあったのだということがわかります。
「イザとなったら死んじゃえばいい」っていう選択肢を作って、閉塞してどん詰まりの世界の中に風穴を開けて風通しをよくして、ちょっと生きやすくしようっていうのが本当の狙いだ
それから30年以上の歳月がたって、新型コロナや南海トラフ地震など、「いつ自分が死んでもおかしくない」という想像力の働く状況がここまで一般的なものになるとは、当時誰も想像していなかったことでしょう。
その意味で、今週のおうし座もまた、生きづらい世の中をサヴァイブしていくためのお守りを、改めてここで再確認していくべし。
おうし座の今週のキーワード
いないいない、ばあ!