おうし座
空気の自然な漏れだし
振る舞いの秘密
今週のおうし座は、『何かが道をやってくる』のウィルとジムのごとし。あるいは、みずからを取りこもうとする怪しい霧をエイヤっと切り裂いていこうとするような星回り。
言いしれぬ恐怖がひたひたと心の平衡を侵していく感覚というのは、いったん感じ始めるとなかなかそれを食い止めるのに難儀するものですが、『何かが道をやってくる』という小説の主人公で、13歳になったばかりの2人の少年ウィルとジムにとってのそれは、ある日町にやってきたサーカス一座でした。
日本でも大正末期から昭和初期には、サーカスというと「人さらいの話」がイメージされていましたが、そんなどこか怪しげで魔術的な古き良きサーカスのイメージを引き継いだ邪悪なサーカス団「クガー・アンド・ダーク魔術団」の刺青男は、彼らを奇形人間に改造してサーカスの団員にしようと、容赦なく、しかも着実に近づいてくるのです。
どこに隠れている? BoysのBの棚かな? Adventure(冒険)のAの棚かな? Hidden(秘密)のHの棚かな?……Terrified(助けて)のTの棚かな?
けれど、町の図書館長を務め、2人の少年の話を唯一信じてくれたウィルの父親が物語の秘密を暴いたとき、もう少しで怪しい霧に飲みこまれそうになっていた彼らは間一髪のところで危機を逃れます。そうして恐怖を一掃する原動力となった魔法の秘密は、じつは誰もが簡単にできる何気ない“振る舞い”にあり、ただ大人になるといつの間にかその回数も減っていき、何より思いきりしなくなってしまうものでもありました。
13歳という子どもと大人のはざまの時期にある彼らは、まさにその瀬戸際の危うい状態にあったわけですが、では日常からなくなると不安や恐怖が勢いを増し、こちらを取り込んでしまうところまでいってしまうような“振る舞い”とは一体何なのでしょうか。
8月13日におうし座から数えて「リレーションシップ」を意味する7番目のさそり座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、もし心当たりが出てきたら、身近なところで思い切って試してみるといいでしょう。
笑うチェシャ猫
ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』に、アリスが木の上のチェシャ猫に道をたずねる場面があります。
アリス:すみませんが、私はどちらに行ったらよいか教えていただけませんか。
チェシャ猫:そりゃ、おまえがどこへ行きたいと思っているかによるね。
アリス:どこだってかまわないんですけど
チェシャ猫:それなら、どっちに行ってもいいさ。
アリス;どこかに着きさえすれば…
チェシャ猫:そりゃ、きっと着くさ。着くまで歩けばの話だけど。
(河合祥一郎訳)
7歳の迷子の少女に対するものとしては、一見まったく取り付く島のない冷たい返答のように思いますが、これはあまりに真っ当に答えようとすると逆にナンセンスに変貌して笑いを誘うといういい例でしょう。
もしかしたら、チェシャ猫はアリスが本当は自分のしたいことがはっきりしていないのを見抜いていたのかも知れません。その状態で親切に道案内をしたり、お節介を焼いてしまえば、アリスの内発的な“したいこと”の現われをかえって妨げて、いよいよ笑えない状況へと陥っていたかも知れません。
今週のおうし座もまた、チェシャ猫がもたらしてくれたような、かすかで弱い「笑い」から拾っていくようにしてみるといいかも知れません。
おうし座の今週のキーワード
不条理ギャグとしての人生