おうし座
火を使ってビジョンを作ろう
ほんの少しの飛躍
今週のおうし座は、『ゆらぎ見ゆ百の椿が三百に』(高浜虚子)という句のごとし。あるいは、本来見えないはずのものを見ていこうとしていくような星回り。
「椿(つばき)」は春を代表する花のひとつですが、掲句はおそらく風にゆらいでいる椿なのでしょう。昔の漫画の表現で、人が走っている様子を表すのにたくさんの足を回転させて描いていたように、動いているものというのは実際より多く見えるものです(「残像効果」ともいう)。
とはいえ、ただ「3倍の数に見えた」と書くだけでは、自動翻訳機の吐き出す無機質な説明文のようになってしまいますから、作者はここで「ゆらぎ見ゆ(風でゆらいで思いがけず見えたことには)」という古い言い回しに、「百」「三百」と具体的な数字をつなげて示すことで、目の前にしている椿の樹の大きさと、それが目も眩まんばかりに満開の花を咲かせている様子を読者に見事に想像させている訳です。
物理的には本来見えるはずのないもの(光景)が、ふっと目に浮かんで見えてしまうという点では、こうした文芸のわざも占いのわざも同じであり、それは特別な霊能力とか一握りの人間にのみ可能な才能の賜物というよりは、ごく普通の日常的な営みの延長線上にある、ほんの少しの意識の飛躍なのではないでしょうか。
3月10日におうし座から数えて「ビジョン」を意味する11番目のうお座で新月を迎えていくところから始まる今週のあなたもまた、そうした意識の飛躍をみずからに引き起こしていくべく動いていきたいところです。
神話的作法
人類のいちばん古い神話原型の一つに、人間が火を盗んだ話があります。これは環太平洋世界で多く見られるそうですが、ある神話では、はじめ人間は火を持っておらず何でも生で食べていた。ところが、天上の神々が火を使っておいしい食べ物を食べているのを見て、人間が天上から火を盗んできて、かまどに火をおいて料理をするようになった、と。
ただ、盗まれた側は「返せ」と言って怒り、天上と地上のあいだで不和が生じたため、和を取り戻すための調停をしていかなければならず、そこをどうするかで地域に応じていろいろなバリエーションができていきました。
その意味で、料理をするということは、神の火を使ってカオス世界に秩序をもたらすという神事に他ならず、それが人間の地上での生活を支えてきた一方で、その裏では必ず高い柱を立てたり、高い山に登ったりして、天地の不和の調停が行われなければいけない訳です。
そして、もとは神事だったそうした行為は、時代が下るにつれて、芸術と見なされていくようになりました。花をいけるのも、俳句を詠むのも、塔を建てるのも、失われた天地の結びつきを再現するということが基本にあり、神話的には本来のエネルギーの流れをどう表現するかという点で共通しているのです。
今週のおうし座もまた、一見バラバラに見える自分の人生のあれこれに一貫した意味を与えるひとつの見立てを、立てていくことがテーマになっていくのだと言えるでしょう。
おうし座の今週のキーワード
火と素材と少しのわざ