おうし座
みな螺旋
もっと二力の衝突調和を
今週のおうし座は、「ねじねじは宇宙の大法なり」。あるいは、衝突をおそれず、むしろそれを利用する方法を考えて、心身を引き締めていこうとするような星回り。
物を締め付けるためにらせん状の溝が刻んである用具を、私たちは普段「ねじ」と呼んで、何気なくその恩恵にあずかっています。ただ、これが緩んでくると全体の姿かたちが崩れるため、そこから比喩的に緊張感がなくなってだらしなくなることを「ねじが緩む」と言ってみたり、逆にだらしない気分を引き締めることを「ねじを巻く」などと言う訳です。
明治・大正期の文豪・幸田露伴のエッセイに『ねじくり博士』というものがあり、そこでは博士の口を借りて「ねじねじは宇宙の大法なり」という‟真理”が語られているのです。
いわく、太陽も月も星も、人間のつむじさえも、みな螺旋を描いて進んでいるのであり、なぜそれらが螺線的に運動をするかといと、「世界は元来、なんでも力の順逆で成立ッているのだから、東へ向いて進む力と、西に向て進む力、又は上向と下向、というようにいつでも二力の衝突があるが、その二力の衝突調和という事は是非直線的では出来ないものに極ッてるのサ」、と(長山靖生『懐かしい未来―甦る明治・大正・昭和の未来小説』)。
つまり、何事においても相反する2つの力の衝突や矛盾が生じなくなってくれば、それは「ねじが緩んで」動きが直線的になってきているのであり、そうして「社会を直線ずくめ」にしてしまうから、本来通るはずの道理も通らなくなってくるのだ、と。
同様に、まさに天地自然の法則に改めて寄り添い、その本来の力を取り戻していこうという意味において、1月11日におうし座から数えて「グレードアップ」を意味する9番目のやぎ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、ここで改めて「ねじを巻く」ことがテーマになっているのだと言えます。
人間クリスの試み
ここで思い出されるのが、実話を元にしたアメリカ映画『イントゥ・ザ・ワイルド』です。主人公は、裕福な家庭でエリートとして育った青年クリス・マッカンドレス。彼は大学卒業を期に、まさにねじを巻きなおすかのように、父親からプレゼントされた車だけでなく、身分や名前を捨てて北(アラスカ)へと旅立っていくのです。
クリスは旅の中でさまざまな出会いを通しその旅を楽しみつつ、最後はアラスカの自然の最中で衰弱死してしまうのですが、幸いなことに、そうした最後の日々において彼が何を考えていたのかは、残された日記を通して窺い知ることができます。中でも次の言葉は、彼なりの旅の総括だったのかも知れません。
人生において必要なのは、実際の強さより、強いと感じる心だ。
一度は自分を試すこと
一度は太古の人間のような環境に身を置くこと
自分の頭と手しか頼れない
過酷な状況に一人で立ち向かうこと
ある意味で彼は、「ねじねじは宇宙の大法なり」という言葉を身をもって実践した人間のひとりであり、人類へ巨大な疑問符を投げかけたのだとも言えます。今週のおうし座は、そんな彼の「心」をいつも以上に近くに感じられるのではないでしょうか。
おうし座の今週のキーワード
一度は太古の人間のような環境に身を置くこと