おうし座
漂泊の心性をあたためる
失踪の必要性
今週のおうし座は、若人あきらの失踪事件のごとし。あるいは、これまであえて伏せてきたことや避けてきたものに、改めて向きあっていこうとするような星回り。
1991年3月3日、熱海の防波堤で釣りをしていた演歌歌手で当時郷ひろみの物真似芸でもお茶の間の人気者だった若人あきらが行方不明になるという事件が起きました。当初は、現場に釣り竿と帽子が残されていた不自然さから、ワイドショーを巻き込んでの大々的な捜索が行われたにも関わらず早急な発見にはいたらなかったそうです。
ところが、失踪から3日後、現場から30キロ離れた小田原市内の路上でうずくまっているところを発見されたものの、失踪期間中の記憶はひどく曖昧で、誘拐されたかのような内容を語ったことで、北朝鮮拉致説もささやかれたのだとか。結局、それは後に本人によって否定されはしましたが、事件の真相が明らかにされることはついぞありませんでした。修
その代わりという訳ではないですが、彼は事件後に若人あきらから我修院達也へと改名し、かつての物真似路線から離れ、音楽プロデューサーや俳優として活躍していくようになっていきました。
おそらく、彼にとって失踪事件はそれなりの必要性があって起きたのでしょう。もしかしたら、物真似芸人という立場に、周囲が思っていた以上の屈託を抱えていたのかも知れませんし、その他の理由もあいまって自分の役割を見失い、いわゆる中年の危機に陥っていたのかも知れません(事件当時の年齢は40歳)。
7月10日におうし座から数えて「潜在的なもの」を意味する12番目のおひつじ座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、どこかで抱えてしまっていた屈託をいかに顕在化させていけるかがテーマとなっていくでしょう。
「定住漂泊」という言葉
これは俳人・金子兜太がまだ日本銀行に勤めていた53歳頃に2年後に近づいた定年を前に自身の生き方を定めるつもりで書いた本の題名であり、そのまま彼の生き様を表した言葉です。「定住」という言葉はある。「漂泊」という言葉もある。ただ、その2つを4文字の熟語として体験的に一つに統合していったところに、その意味するところはありました。
さすらい、漂泊の心性、心というものをみんなもっている。世の中が豊かになればなるほど逆に、漂泊の心性に憑かれて、独りの道を歩むようになる。歩めなくなった場合でも、定住した状態でその漂泊の心性を温める。温めることのなかから何かが生まれてくる。それが創作のエネルギーになっている。そういう意味で、漂泊の心、心性、これが人間にとって基本のものはないか。(黒田杏子『金子兜太養生訓』)
金子にとって、漂泊とはある種の情念であって、必ずしも放浪生活を必要とはしなかったのでしょう。そうではなくて、反時代の、反状況の、あるいは反自己の、定着することができない魂の在り様であって、その芯の部分には「無」や「虚」があったのだと思います。
今週のおうし座もまた、自分の中にある日常では決して満たされない部分を薄めてしまうことなく、肯定し受け入れていくのか否定し絶っていくのか、問われていくことになりそうです。
おうし座の今週のキーワード
いまの日常では決して満たされない部分