おうし座
ひとり小径をゆく
※7月2日配信の占いの内容に誤りがございました。お詫びして訂正いたします。(2023年7月3日15時11分更新)
非時間の空間へ
今週のおうし座は、『やはらかく胸を打ちたる団扇かな』(片山由美子)という句のごとし。あるいは、ゆったりと、しかし着実に自己内対話を進めていこうとするような星回り。
胸元で「団扇(うちわ)」を使う。人前でせかせかと使用することの多い扇子(せんす)と違って、団扇はもっとプライベートな時間に、ゆったりと使われるものです。
そのことを作者は「やはらかく」と表現した訳で、使われている言葉自体はとても平易で特別なところは何もないにも関わらず、これほど「団扇」にふさわしい時間を過不足なく表現した句は他にないのではないかと感じるほど、句としての仕上がりには素晴らしいものがあります。
掲句はたえず生成変化しているこの世の時間の流れから一寸だけ抜け出た先で初めて可能になる時間の流れの表現とも言えますが、例えば思想家のハンナ・アレントは、こうしたゆったりとした時間の流れ方をする領域においてこそ自己内対話は可能となるのだとして、その領域を「非時間(ときじく)の小径」と名付けました。
その意味で、ここでは「団扇」が胸元を「やはらかく」打つごとに、作中の「わたし」はこの非時間の空間をあらためて発見し、着実な足取りで踏みならしているのだとも言えます。同様に、7月3日におうし座から数えて「時空の裂け目」を意味する9番目のやぎ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、他でもない自分自身に話しかけるために言葉を紡いでみるといいでしょう。
孤独のなかで語る
かつてガストン・バシュラールは何かのエッセーの中で「ラジオには、孤独のなかで語るに必要な一切のものがある」と書いていましたが、人には誰しも、自分の心の奥に自分だけの聖域を持っており、そこには自分に関するすべての秘密の入った黒い小箱があります。
しかもそれはただの収納箱ではなく、飛行機のブラックボックスのように、これまでに自分に起きた出来事や心の動きの一切が記録していると同時に、壊れかけのラジオのようにチャンネルさえきちんと合わせれば、そうした情報の一部を私たちに伝えてくれるのです。
ラジオはテレビのように派手に脳や神経を刺激するものではありません。耳で誰かがささやき、それに応えるように私たちは心の小箱をそっと開いていく。すなわち、こちらから周波数を合わせていく中で「不在の語り手」をその不在性ゆえに豊かに感じ取っていくことができるメディアであり、そこはやはり時間の流れがゆったりとしている領域なのです。
その意味で、今週のおうし座もまた、さながら自分のためのラジオを放送しているようなつもりで、心の音を無心で鳴らしてみるといいかも知れません。
おうし座の今週のキーワード
壊れかけのRadio