おうし座
運命の基礎工事
鍵はあしゆびにあり!
今週のおうし座は、『あしゆびに八つの股や広げて春』(鈴木牛後)という句のごとし。あるいは、身体の根本に活力を吹き込んでいこうとするような星回り。
本格的な雪解けの前に山や森の木の根元から雪が解け始めることを「木の根明く」と言って春の季語として使われるように、人間もまた活力や生命力を取り戻していく際には、やはり足元の柔軟性ということが重要となってきます。
酪農業に携わり、日頃から肉体労働が生活の一部となっている作者は、おそらくそういうことを誰に教わらずともよく知っているのでしょう。そう、冬のあいだ硬く縮こまっていた生命が、その本来の創造性や躍動感を取り戻していく鍵は「あしゆび」にあり。
そして、生命が弱ったり運命が停滞したりするのにも突きつめれば深い訳があるように、「あしゆび」にもよくよく見れば確かに「八つの股」がある。作者はここでその股をそっと広げて、何かを確認している。
きっとこうした些細な動作やちょっとした反応のなかで直接感じとった「春」は、単に頭で受けとった情報としての春とは違って、人の全身をへ巡った末に、その運命にまで浸透し、より柔らかく、ふっくらとしたものにしてくれるはず。
28日におうし座から数えて「生の基盤」を意味する4番目のしし座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、作者同様にそっと「あしゆびの股」を広げて自身の生命力や運命の在り様を確認してみるといいでしょう。
快楽としての呼吸
現代人のほとんどは「過換気症」的な状態にあると言われています。これは過度なストレスで身体が興奮状態にあるときに息を吸い過ぎて苦しくなってしまうといういわゆる過呼吸状態に近く、ひどい場合には手足がしびれたり、意識を失ってしまう人もいます。
気分的には何かに追われている、慌てている感じで、つねに何かをしていなければならないという強迫的な焦りや不安やイライラを抱えており、何か特別な問題に直面していなくても、身体の状態そのものが不安やイライラに陥りやすい状態にあり、はっきり自覚できればまだいい方で、多くの人は、はっきりした自覚もなくそうした状態にあります。
これは近代以降の科学的合理主義やその成果としてのテクノロジーが、精神と身体をつなぐ半自覚的な営みである呼吸を完全に抑圧・忘却することによって広まってきたことへの反動でもあり、特に明治以降「科学教」とさえ言えるほどにそうした欧米の姿勢を後追いで取り込んできた日本において、決定的かつ致命的な身体の崩壊を招いてしまった訳です。
ただ一方で、西洋的な合理主義を乗り越えようと、哲学の立場から全身全霊で取り組んだ西田幾多郎による、「かかる世に何を以て楽しみとして生きるか」という自問に対する「呼吸するも一つの快楽なり」という答えは、今週のおうし座にとって十二分に立ち戻る価値のある言葉として感じられてくるでしょう。
おうし座の今週のキーワード
崩壊しつつある身体を建て直す