おうし座
もしもし神さまですか?
不在の語り手に耳を傾ける
今週のおうし座は、『空耳か炉咄かるく手で押さへ』(緒方句狂)という句のごとし。あるいは、狭い世間の範疇をこえたところで流れている調べに身を浸していこうとするような星回り。
作者は30歳頃に失明してから俳人となった人で、掲句ではその盲俳人としての特色が見事に出ているように感じます。
冒頭の「空耳か」というハッとした動き出しから結びにいくまで、それまでの賑やかな会話の流れがぴたりと止まり、外の静寂と触れあった瞬間の、ただ囲炉裏の火だけが赤々と燃え、耳を澄ます人々の顔を照らしている―これが冬の夜の静けさなのだ、と。
しかも1人の盲人が周囲の人びとの口を押さえ、耳を澄ませている姿を思い浮かべるとき、いっそうこの句は生きてくるはず。それにしても、たとえ空耳だとしても、冬の静けさのなかにこの盲俳人はどんな音を聞き取ったのでしょうか。
おそらくそれは本来聞こえないはずの音や話し声であり、幻聴と言ってしまえば味気ないですが、透明度の増した冬の夜の外気を伝わって響いてきた宇宙的な音楽だったのかも知れません。
11月30日におうし座から数えて「通信」を意味する11番目のうお座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、より研ぎ澄まされた時空へとみずからを接続させていくべし。
孤独のなかで語る
ガストン・バシュラールは何かのエッセーの中で「ラジオには、孤独のなかで語るに必要な一切のものがある」と書いていましたが、人には誰しも、自分の心の奥に自分だけの聖域を持っており、そこには自分に関するすべての秘密の入った黒い小箱があります。
それはただの収納箱ではなく、飛行機のブラックボックスのように、これまで自分の身に起きた出来事や心の動きの一切が記録されていると同時に、壊れかけのラジオのようにチャンネルさえきちんと合わせれば、そうした情報の一部を私たちに伝えてくれるのです。
ラジオはテレビのように脳を派手に刺激するものではありませんが、その代わりまるでそっと寄り添うように自分だけに何かを伝えてくれているような特別感があります。耳元で誰かがささやき、それに応えるように私たちは心の小箱をそっと開いていく。すなわち、掲句で作者がそうしていたように、「不在の語り手」をその不在性ゆえに豊かに感じ取っていけるメディアなのです。
今週のおうし座もまた、そんな小箱に周波数を合わせることで、心の琴線に触れてくるような無音の歌を探してみるといいでしょう。
おうし座の今週のキーワード
ラジオチャンネル・アカシックレコード