おうし座
平穏を保つために
日常の守り神
今週のおうし座は、『飛鳥仏けふも面長大根(だいこ)干す』(斎藤夏風)という句のごとし。あるいは、すぐそばに居てくれるものの有難さに改めて気付いていくような星回り。
六世紀半ばに百済から仏教が伝えられたことで、日本で初めての本格的な寺院である飛鳥寺が建立され、同地の地名から後に飛鳥時代と呼ばれるようになりました。つまり、「飛鳥仏」とは日本における始原の仏像であり、その特徴は細長い顔に大きく張った眼など、どことなくウルトラマンを彷彿とさせるビジュアルをしています。
そんな仏像が祀られている寺のお堂で大根を干しているのは、おそらく寺の小僧か近所に住む農夫でしょう。「けふも面長」という言い方には、毎日毎日仏像の顔を拝んでいても、そのたびに驚いているような風情があります。
彼らにとって飛鳥物は何気ない日常の一部であると同時に、そうした平穏な日常を守ってくれている心のよりどころであり、守り神のような存在だったのかもしれません。
同様に、16日におうし座から数えて「安心」を意味する4番目のしし座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、みずからの日常を根底で支え、安らぎをもたらしてくれている存在の大きさに改めて驚いていくことになるはず。
日常世界が一番怖い
恩田陸の短編集『光の帝国』は、「常野(とこの)」と呼ばれる土地からやってきた、不思議な力を持った一族の物語。ただし、不思議な力とはいっても、マーベルヒーローのような大袈裟な特殊能力ではなくて、もっとささやかなものです。
例えば、書物をさっと暗記できる能力だとか、遠くで起こったことが分かる力、ほんの少し先に起こることが前もって分かる力などで、彼らはその力で戦ったり支配しようとすることもなく、いたって静謐に、何でもないような顔をして市井にまぎれて生きようとしている(仏というのも、案外そういうものなのかも知れません)。ただ、彼らは自分たちがまぎれようとしている日常が、じつはかなり奇妙で、そこはかとない恐怖に満ちているということに気付いてもいる。
私は目を凝らして次々と出て来る人間たちを見つめた。あの色彩を探すのは困難ではなかった。サングラスの下から蔓がのぞいている男。ワイシャツのカラーからシダが飛び出している男。背中に草がはえている女。ぽつりぽつりとではあったものの、今見ている短い時間の間にこれだけ見つかるということは、全体ではかなりの人数になることは間違いない。(中略)「そうなんだよ。今までは、街の中に生えているだけだった。ところが、最近は人間に草が生えるようになったんだね。彼等はそのことに気がついていないだろうけどね。でも、そのうちにあの草は彼らの内臓も精神も破壊してしまうだろう」
今週のおうし座もまた、日常世界と向きあっていくのに妥当な注意深さを改めて取り戻していくことがテーマとなっていくでしょう。
おうし座の今週のキーワード
不穏さを感じ取り、その根を見抜いていくこと