おうし座
束の間の闇を求めて
「虫の闇」に潜むもの
今週のおうし座は、『閂をかけて見送る虫の闇』(桂信子)という句のごとし。あるいは、なんとなく見過ごしていた現実の底知れなさと不意に相まみえていくような星回り。
「虫の闇」は暗闇のなかで虫が鳴くことによって、よりいっそう闇が深いものに感じられることをいう。おそらく作者は「閂(かんぬき)」をかけて戸を閉め、振り返った瞬間、日常のすぐ傍らに思いもよらない怖ろしいまでに深い闇が存在することに気が付いたのでしょう。
和歌の伝統にあるように、古来より虫は「声を聞く」ものであり、それは秋の到来とともに私たちの胸に押し寄せる侘しさや悲しさを象徴する風物詩でもありました。掲句の「虫の闇」もまた、その意味では現代人がいつの間にか抱えていた不安や恐れをどこかで反映しているのかも知れません。
たとえば、寝転がりながら何気なく眺めていたTwitterのタイムラインで、ぎょっとするような発言を見かけたり、大ファンという訳ではなかったけれど同時代に生きていたことを確かに感じていた有名人がひっそりと亡くなっていたことを知ったり。
時代や環境は変われど、日本人の心の奥底にはいつまでもそうした「虫の闇」が潜んでいて、時おり深い闇の側からこちらを見返しているのだとも言えます。
10月3日におうし座から数えて「合意的現実の亀裂」を意味する9番目のやぎ座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、そんな深い闇からの送られてくる視線にみずからピントを合わせていくようなところがあるはず。
一個の巨大な疑問符となる
かつて「馬は死後何になるか?光の馬になるに決まってる」と言った人がいましたが、これが自分のこととなると、さっぱり分からなくなります。それに、確かに死ねば文句はないのですが、死ねないことが問題というか。
われわれは醒めても醒めてもなお醒めなければならず、そういう永劫の悪夢の中にポイと放置されているかのようでもあります。
それでも日が暮れて、冷たい風が吹き、虫の音が静かな心をただただ満たす頃には、束の間の精神は記憶の上澄みのように透きとおって、これまで見えていなかったものが見えるようになったり、聞こえてなかったことが聞こえてくるはず。そういう時の、ニュートラルで透き通った眼差しが、今週は凄味を増して現れてくるでしょう。
いつもなら目の前を素通りさせている現実や、気にも止めていなかった関係性の中に、何か引っかかるものがないか。あるいは、ここのところ忘れていたような長年の疑問をほどくヒントがあたりに転がっていないか。静かに、しかし心のままに、問うてみてください。
おうし座の今週のキーワード
闇に立ち、闇に親しむ