おうし座
季節外れの返り花
滅びの文学としての歌
今週のおうし座は、「熱燗や国滅ぶとき歌おこる」(藤井元基)という句のごとし。あるいは、力強い「うた」が胸中からあふれ出していくような星回り。
「国滅ぶ」とは尋常ではないですが、そもそも日本文学の源流にあたる万葉集の根底にあったのは、かつて都市文明があったが、それはもう壊れてしまったという「喪失の感覚」であり、そこで描かれていたのは鄙びた素朴な世界というより、「ポスト文明」をめぐるさまざまな心象風景でした。
現代の感覚では奈良・京都というと「悠久の都」というイメージがありますが、古代の日本は遷都が頻繁に行われ、万葉集の中心人物のひとりである柿本人麻呂の生きた時代も、壬申の乱という壮絶な内乱のせいで、次々に作られては捨てられる都に敗者の怨念が宿ることが恐れられていたという背景があり、詩歌などの「文学」はそれを慰め、鎮魂するために編み出されていった訳です。
その意味で、コロナ禍を経て明らかに人流が減ってしまった繁華街や飲食店などの光景もまた、「ポスト文明」の景であり、今こそ時代に翻弄され、疲弊し、怨念を抱いてしまった人びとの魂を慰めるための「うた」をおこす、そのときなのだと言えるかもしれません。
27日におうし座から数えて「お気持ちの表明」を意味する5番目のおとめ座で下弦の月(気付きと解放)を迎えていく今週のあなたもまた、自身がどんな滅びのさなかにあるのかということに、改めて気付いていくことがテーマとなっていくでしょう。
夢うつつの境目で
うたが自然にあふれてくる時というのは、たとえるなら寝入り際に夢うつつの境を通り過ぎていくときの感覚と言ったらいいでしょうか。心の底から驚いているのだけど、どこかでそうなることが分かっていたかのような、じつに不思議な感覚がするものです。
さーっと鳥肌が立つような、首の後ろをシュワーっと電流が走っていくような、心は静かなのに思わず叫びだしたくなるような。そういう懐かしくも新鮮な感覚を今週のおうし座は体験していくことができるかも知れません。
ただし、それをただの‟棚ぼた”として何も考えずに享受して、即座に忘れてしまうのか、それともそうしたはかない感覚を何度もなぞるようにして自分のものにしていくことで、自分の作品や仕事に落とし込んでいくことができるのかは、人によって大いに分かれていくことになるでしょう。
あなたはそのどちらに転ぶのか。その偶然そのものを楽しむくらいのつもりで過ごしてみるといいかも知れません。
おうし座の今週のキーワード
時代に咲く花としてのクリエーション