おうし座
涙と影
ひとりでは泣くに泣けない
今週のおうし座は、「玉ねぎ地下酒場」のごとし。あるいは、泣くにも泣けない悲しさを思いきりなにかにぶつけていくような星回り。
ギュンター・グラスの長編小説『ブリキの太鼓』では、戦中から敗戦後にかけてのドイツ社会解体の混乱が、緻密かつぶざまに、ときにグロテスクなユーモアをまじえて描写されているのですが、その中にライン河畔の市にある「玉ねぎ地下酒場」の場面があります。
酒場ならばビールやワインが飲めるばかりでなく、ちょっとした料理が食べられるのが普通ですが、ここではそういうものは一切出ません。客のまえには、まな板と包丁が並べられ、そこに生の玉ねぎが配られるのみ。つまり、このまな板の上で各自めいめいが玉ねぎの皮をむき、好きなように切り刻んで、それをご馳走にしろという、なんとも人を食ったシステムなのです。
ただ、こうしたバカバカしいことをするために、わざわざ料金を払ってやってくる客がいるのも事実。それは一体どういうことかと言うと、玉ねぎを切れば客の目には涙が流れる訳ですが、それがミソになっていると。
その汁がなにを果たしてくれたのか?それは、この世界と世界の悲しみが果たさなかったことを果たした。すなわち、人間のつぶらな涙を誘い出したのだ。
11月5日におうし座から数えて「誘い出してくれるもの」を意味する7番目のさそり座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、自分ひとりだけでは難しいことに誰かや何かの力を借りて取り組んでみるといいでしょう。
影おに
人間というものはすべて、どんなに洗練されているように見えても、必ずどこかに太古的なものを引きずっており、したがって醜悪で不気味な暗い影が差しているものです。
そうした側面をふとした拍子に垣間見せられた者は、わざわざさかしらに暴きたてるような野暮な真似までしないものの、受け止めきれずに一方的な価値判断を加えてみたり、自分が見た悪夢を打ち消そうと完全な明るさに満ちた別の像を夢見ていく傾向にありますが、それこそ終わりなき屈折と錯覚の始まりなのだと言えるのではないでしょうか。
心にはまだ発達可能な太古的無意識の「残り」がありますが、それがどれだけの規模なのかは、誰にも分かりません。人はなぜ理性的でないのか。善のみ行わず、悪を為すのか。愚行を繰り返し、最善の意図を見失うのか。そして、なぜどこまでも自分に満足できないのか。今週のおうし座は、改めてこうした問いに立ち返っていく意志を問われていくことでしょう。
おうし座の今週のキーワード
あなたが心の平穏を取り戻すためにどれだけの手助けが必要なのか